「段取り力」を育てるには

 昔の日本は、男性でも段取り力が備わったのかもしれない。戦後間もなくは、人口の半分が農家だった。農業は、あれを作付けしたら次はこれの準備、というように、さまざまな仕事を入れ子状に組み合わせて進めなければならない。農業を手伝う中で、自然に段取り力を身に付けたのだろう。

 しかし今の子供は、場合によっては受験勉強しかしていない。部活もしているかもしれないが、同時並行で処理するという経験は、ほとんどせずに学校生活を終えることになる。現代の子供には、段取り力を身に付ける機会がほとんどないのだ。

 しかも社会は便利になって、コンビニやスーパーに行けば、お総菜やお弁当が売っている。料理をしなくても食事ができてしまう。家庭ができ、子育てに入っても、お金さえあれば料理をしなくてもどうにかなってしまう。しかしそうなると、子供たちには、段取り力を必要とする場面がほぼゼロになってしまう。仕事では、段取り力が強く求められるというのに。

 長期的展望に立つなら、子どもたちと一緒に料理を楽しむだけのゆとりがないと、子どもに段取り力を身に着けさせることは難しくなる。実際、日本では「個食」「孤食」が進み、子どもは家族と一緒に食べるという経験さえ乏しくなりつつあると言われる。

 この状況は、できる限り長時間会社で働いてもらおうということから生まれた状況だが、この状況を続ければ、日本社会は段取り力を持たない人材を大量生産することになる。一度にひとつのことしかできない人材ばかりになったら、仕事にならない。今の日本の状況は、すでにそれが現実になり始めているのかもしれない。

 日本を持続可能な形で発展していける国にしたいのなら、段取り力を身に着けるのに最適な「料理」を、家庭の中で楽しめるようにする必要がある。それには、疲れきって家に帰るようではいけない。スーパーに買い物に行って、家に帰って「ただいま! これから料理を作るよ! 一緒に手伝って!」と元気に声をかけられる家庭を取り戻す必要があるだろう。

 働き方改革は、単に職場の改善だけではなく、家庭を見据え、次世代がどう育つかを見据えた上で考える必要がある。

「料理」と「段取り力」。どうかこの2つのキーワードを、働き方改革では忘れないでいただきたい。