業歴200年を超える超長寿企業は建設工事業、酒類業、宿泊業、卸小売業等に多い。写真は多くの店や旅館に挟まれた通りを歩く旅人を描いた安藤広重の浮世絵。写真提供:Universal Images Group/共同通信イメージズ
自社の繁栄だけでなく、経済の循環を通じて日本経済全体に発展をもたらす「企業価値の最大化」は、今や現代企業の使命とも言える。
本連載では、『企業価値最大化経営』(澤 拓磨 著/日本経済新聞出版)から内容の一部を抜粋・再編集し、企業価値の最大化を実現するために必要な「構想力」「実行力」をいかにして向上させるか、事例を交えながら多方面から検証する。
第2回は、企業価値最大化経営を長期間続ける上で重要なポイントを、古今の事例や失敗例から学ぶ。
<連載ラインアップ>
■第1回 企業価値最大化経営のキードライバー、「CEO」と「M&A」が果たすべき役割とは?
■第2回 世界最古の企業・金剛組ほか、超・長期にわたり繁栄する組織の「3つの共通点」とは?(本稿)
■第3回 M&A後の企業価値最大化を目指す上で行うべき「3つの施策」と「失敗パターン」とは?
■第4回 時価総額100億円から1000億円を実現するための「事業ポートフォリオ」「組織」「リーダーシップ」戦略とは?
■第5回 創業100年企業の企業価値最大化の成否を握る、「次の100年ビジョン」とは?
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【主要論点1】 現時点の実力に相応しい企業価値最大化経営
『企業価値最大化経営』(日本経済新聞出版)
企業価値最大化経営ではゴーイングコンサーンを前提に、3~5年単位で企業価値最大化経営に挑戦し続ける。そして、挑戦を終え、企業価値最大化経営に再挑戦する際には、都度「その時点」における実力に相応しい企業価値最大化経営に再挑戦していくことが非常に重要だ。
プロセス①~④で紹介した企業価値最大化経営の一連のプロセスに全力で取り組んできた場合、3~5年前と現在では構想できる事業ビジョン、目標にできる企業価値、実行可能な戦略が大きく異なるはずである。
企業価値最大化経営に再挑戦する際もやるべきことに変わりはない。すなわち、厳格なセルフデュー・ディリジェンスを実施し、フルポテンシャルを算定することが出発点だ。当該フルポテンシャルを参考値としCEOが「現時点」の実力に相応しい目標企業価値を決断する。そして、中期経営計画を策定・決断・コミットメントし目標企業価値を実現していくのだ。
【主要論点2】 時代や世代を超えた企業価値最大化経営
ここまで企業価値最大化経営への挑戦と再挑戦といった6~10年程度の短中期的な時間軸における企業価値最大化経営を紹介してきた。しかし、企業価値最大化経営はゴーイングコンサーンが前提であり、長期・超長期を時間軸とする時代や世代を超えた企業価値最大化経営についても検討していく必要がある。
企業、とりわけ企業価値最大化経営の主体となる株式会社は「人により事業を行うために創造・経営される営利目的の生物、公器、組織、経営資源の有機体」だ。
そのため組織という切り口でアナロジー(類推)し、どのような組織が長期・超長期にわたり繁栄し続け、そうした組織にはどのような特徴があるかを分析することで時代や世代を超えた企業価値最大化経営のヒントを得られる。
ここでは長期・超長期にわたり繁栄し続ける代表的な組織として、株式会社金剛組(非上場企業として世界最古の企業。創業578年、業歴1445年)や松井建設株式会社(上場企業として日本最古の企業。創業1586年、業歴437年)等の超長寿日本企業(その他業歴200年を超える超長寿企業は建設工事業、酒類業、宿泊業、卸小売業等に多い)、超長寿宗教組織(世界三大宗教の1つで最も歴史の長い仏教は2500年超の歴史を持つといわれる)、八省(7世紀後期[飛鳥時代後期]より開始された律令制で太政官[現在の内閣府に相当]に属する8つの中央行政官庁。中務省[同宮内庁侍従職に相当]、式部省[同文部科学省・人事院に相当]、治部省[同外務省・宮内庁の書陵部・式部職に相当]、民部省[同財務省・国税庁に相当]、兵部省[同防衛省に相当]、刑部省[同法務省に相当]、大蔵省[同財務省・経済産業省に相当]、宮内省[同宮内庁の主膳職等に相当]の総称)の3つの組織に共通する特徴をみていこう。特徴は3つだ。
1つ目は、需要が尽きず競争の少ない市場を独占している、である。
超長寿日本企業の事業内容はほぼ全ての企業が、需要が尽きず競争の少ない市場にてそこでしか手に入らないOnly1の製品やサービスを提供することで独占に近い市場シェアを得ており、超長寿宗教組織は三大宗教間での多少の競争はあれど緩やかであり、世界中からの入教需要は尽きない。八省についてはいわずもがなである。
2つ目は、いたずらに規模化し組織を複雑にすることを避け、組織文化の醸成・浸透に成功している、である。
超長寿日本企業、超長寿宗教組織、八省ともに、時代や世代を超え挑戦し続けるのはその時代を生きる人であること、そして、人を動かすのは組織文化に他ならないことを認識し、組織の複雑性を避け組織文化の醸成・浸透を徹底している。
3つ目は、次の時代を担う人を育成し続けている、である。
超長寿日本企業、超長寿宗教組織、八省ともに、長い目で後継者や次の時代を担う人を育成可能な仕組みが整備され機能し続けている。
3つの組織に共通する特徴は、長期・超長期を時間軸とする時代や世代を超えた企業価値最大化経営にそのまま当てはめることが可能だ。すなわち、今の時代を生きる我々は、いつの時代も需要が尽きず競争の少ない市場を発見・ポジショニングし独占を目指し、組織文化の醸成・浸透に努め、次の時代を担う人を育成し続けるべきなのである。
【よくある失敗1】
企業価値最大化経営の文化・ノウハウ・体制が適切に社内に浸透・蓄積されておらず、再挑戦を続けるたびに本来同期間で得られたであろう複利効果を享受し損ねる
ゴーイングコンサーンが前提であり、複利効果が働き、高い専門性が求められる企業価値最大化経営において、一度経験した企業価値最大化経営の文化・ノウハウ・体制を浸透・蓄積させず、都度再挑戦していくことは避けたい。
例えば、一度目の経験で0.1の企業価値最大化経営の文化・ノウハウ・体制が社内に浸透・蓄積され、二度目の経験でも同様に0.1の浸透・蓄積がなされるとする。
この場合、数学的に考えれば、1(対象企業が一度目の経験前に有していた文化・ノウハウ・体制)×1.1(一度目の経験で社内に浸透・蓄積される文化・ノウハウ・体制)=1.1。1.1×1.1(二度目の経験で社内に浸透・蓄積される文化・ノウハウ・体制)=1.21(二度目の経験後に対象企業に浸透・蓄積されている文化・ノウハウ・体制)となる。
これが、一度目の経験、二度目の経験ともに、0.5の企業価値最大化経営の文化・ノウハウ・体制が社内に浸透・蓄積された場合、1×1.5=1.5、1.5×1.5=2.25となり、一度目の経験・二度目の経験ともに0.1の浸透・蓄積がなされた場合の1.85倍もの文化・ノウハウ・体制が社内に浸透・蓄積されることとなる。さらに経験回数を重ねればこの差は広がる一方だ。
企業価値最大化経営の文化・ノウハウ・体制を適切に社内に浸透・蓄積していく仕組みや施策を企業価値最大化経営の一部に組み込むことは必要不可欠だ。
【よくある失敗2】
CEOが自己満足し現時点の実力に相応しい・時代や世代を超えた企業価値最大化経営への飽くなき挑戦をし続けることを止める
ここまで企業価値最大化を実現し続けるCEOの方法論と要諦について述べた。最後に、最もよくあり、企業価値最大化経営そのものを破壊しうる失敗「CEOが自己満足し現時点の実力に相応しい・時代や世代を超えた企業価値最大化経営に挑戦し続けることを止める」について述べる。
CEOは企業価値最大化経営のキードライバーだ。従って、CEOが自己満足し挑戦し続けることを止めれば、対象企業の企業価値最大化経営が最盛期の勢いを取り戻すことは至難の業だろう。
なお、年齢的・健康的問題で後世にバトンを継がざるを得ない状況であっても、CEOが自己満足し挑戦し続けることを止めているか否かが事業承継等の方向性を決める分水嶺となる点も申し添えておきたい。
<連載ラインアップ>
■第1回 企業価値最大化経営のキードライバー、「CEO」と「M&A」が果たすべき役割とは?
■第2回 世界最古の企業・金剛組ほか、超・長期にわたり繁栄する組織の「3つの共通点」とは?(本稿)
■第3回 M&A後の企業価値最大化を目指す上で行うべき「3つの施策」と「失敗パターン」とは?
■第4回 時価総額100億円から1000億円を実現するための「事業ポートフォリオ」「組織」「リーダーシップ」戦略とは?
■第5回 創業100年企業の企業価値最大化の成否を握る、「次の100年ビジョン」とは?
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