
いまや「業務スーパー」を知らないという人は少ないだろう。もともとは「業務用食材をプロ向けに販売する業態」だが、「業スー」とも呼ばれ、SNS上では「おすすめ商品」や「簡単レシピ」などをテーマに数多の動画が投稿されるなど、一般顧客も引き付ける存在になっている。この業務スーパーが店舗数と売上を伸ばし続けている。それはなぜか。今回はその理由に迫る。
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「売上高、増加幅とも過去最高となった」
業務スーパーを運営する神戸物産(本社:兵庫県加古川市)の沼田博和社長は2023年10月期の決算をこう振り返った。
神戸物産の業務スーパー事業の売上高は4469億800万円、店舗数は1048店。
業務スーパー事業の伸長ぶりは直近5期分の業績推移をみても明らかで、売上高は毎期2けたの伸びを続けている(下の図)。
店舗も毎期50~80店前後の出店を行い、2022年度には総店舗数が1000店を突破。日本において、単一の店舗ブランドで1000店を突破した例はスーパーマーケットでは他に例がない。営業利益率は毎年7、8%台を維持しており、スーパーマーケットとしては高水準の利益率だ。
一般的に業務用スーパーは飲食店、ホテルなどを主な顧客とする。従って、商品も生鮮食品の大型パック、調味料や乾物などの大容量パック、飲料や酒類のケース売りといった販売形態が主流となり、生鮮食品もカットしたり、下味や衣をつけるなど加工度を高めたものを冷凍で販売することが多くなっている。
神奈川県横浜市の繁華街にある業務スーパーの店内をみると、国内産お茶2リットル89円(税抜き)、炭酸水1リットル64円(同)、れんこんスライス1㎏448円(同)などが目につく。来店客は飲食店関係者もみられるが、子ども連れのファミリーも目立っている。
成長の原動力は「フランチャイズチェーン化」と「SPA化」
業務スーパーの成長の原動力は2つ挙げられる。「フランチャイズチェーン化」と「製造小売業(SPA)化」だ。
神戸物産は1981年に現社長の沼田博和氏の実父・沼田昭二氏が兵庫県に小さなスーパーマーケットを開業したのが始まりだ。その後、中国に自社工場をつくって加工食品の製造を始めるなどし、SPAを指向。2000年に業務スーパーの本部を立ち上げ、同年、兵庫県でフランチャイズ(FC)1号店をオープンさせた。2001年に現社名に変更すると、エリアFC体制をつくり上げ、新潟県にエリアFC契約1号店をオープンするなど早々に地方展開を開始。2002年には東日本にエリアFC本部を設け、神奈川県に1号店をオープンさせた。
業務スーパーは2つのFC契約形態を基本としている。1つが、神戸物産が加盟企業を開拓して出店も行うFC契約で、近畿圏、首都圏、九州、北海道が対象。神戸物産はこの地域を直轄エリアと呼んでいる。もう1つが県単位で業務スーパーの多店舗展開を許諾するエリアライセンス契約で、既存店舗を業務スーパーに転換する。直轄エリア以外の地方エリアが対象だ。いずれの場合も基本的に地域の食品卸や小売業をフランチャイジーとし、フランチャイザーである神戸物産の支援の下で運営などのサポートを受ける。これが神戸物産の業務スーパーの展開モデルだ。
この2つの契約形態で店舗を増やし、北海道には2013年に、九州(鹿児島県、沖縄県を除く)には2017年に進出。2021年の宮崎県出店で47都道府県への出店を果たしている。
成長の原動力の第2のポイントであるSPA化では、商品供給のインフラ整備に早くから乗り出している。創業間もない1992年に中国に食品工場を設立し、2004年には海外の生産拠点拡大のための法人を香港に設置している。2006年に大阪証券取引所第二部に上場すると、以降、食肉加工、養鶏・鶏卵加工、乳製品や日配品製造など国内の食品の加工・製造企業を次々に傘下に収め、国内外に製造・調達の基盤を構築していく。2022年時点で、神戸物産が国内に有する食品工場数は25カ所、これは日本国内では最大級の展開規模といわれ、さらに海外には約350の協力工場を持つまでになっている。
神戸物産はこのように食品商社および製造製造業の顔も持ち、国内PB(プライベートブランド)商品は370アイテム、約50の国・地域からの直輸入品は1590アイテムある。出荷額におけるPB比率は2023年10月期では34.57%で、前年の34.74%より少し下がったが、神戸物産ではこれを「PB商品の出荷額は増加傾向にあるが、それ以上にナショナルブランド(NB)商品が好調であることや、NB商品の価格改定により相対的にPB比率が低下したため」と説明している。
しかし、PB比率の向上を目指す戦略は変わらない。「サプライチェーンや、店舗運営の仕組みの改善、そして、グループの目標である『食の製販一体体制』の拡大に注力し、他社との差別化を図る」ことが神戸物産の方針になっている。
営業利益率2%の事業モデル
神戸物産はFC加盟店募集のために業務スーパーの強みを5つ挙げている。同社のサイトで紹介されている内容をまとめると、①ロイヤリティが仕入れの1%(地域により異なる)、②利幅の取れるオリジナル商品、③ほとんどロスが出ない常温・冷凍商品メインのラインアップ、④利便性の高い発注システムによる店舗運営、⑤スーパーマーケット未経験者でも安心のサポート体制といえるだろう。
店舗モデルは「売場面積 約120~170坪。郊外のロードサイドであれば、約20~30台の駐車場を確保」。規模としては小型のスーパーマーケットで、都市部では商店街や繁華街に立地する店舗も多い。神戸物産は加盟希望者からの出店希望地の提示を受けた上で物件視察、商圏調査を行い、出店可否を検討。小売企業が新たな事業として開始しやすいようにしている。
加盟契約時に必要となるのは「加盟金200万円(消費税等別途)、保証金1000万円(エリアフランチャイズでは当該地域の人口×5円)」。さらに開業に際しては店舗設備に3200万~3800万円(店舗の物件により変動)と、建築工事やPOSレジの費用、準備金など、初回発注分の商品仕入れに約1500万~2000万円が必要となる。店舗運営のランニング費用ではロイヤリティが商品仕入れ額の1%。月間当たりの発注システム使用料が2万8571円。
気になる収支だが、神戸物産では月間の損益シミュレーションを以下のように示す。
「売上高 43,500千円、売上総利益 7,395千円(対売上比17.0%)、賃料や人件費を含む販売管理費 6,499千円(同14.9%)、営業利益 896千円(同2.1%)」
営業利益率2%はスーパーマーケットとしての収益性でみれば、一般的な水準だ。
有力地方チェーンの加盟が進む
現在、地方エリアの業務スーパーは加盟企業15社で371店舗。小売企業ではマキヤ(本部:静岡県富士市)が加盟をしている。同社はディスカウントストアやスーパーマーケット、リサイクルショップなど101店舗を展開するが、約半数の49店舗が業務スーパーで、エリアライセンス契約により静岡県、山梨県、神奈川県、埼玉県に店舗展開。2023年3月期の連結売上高709億3800万円に対して業務スーパーの売上高は190億5400万円と全体の26.9%を占める。
また、最も多くの店舗を展開しているのがG-7ホールディングス(本社:兵庫県神戸市)。カー用品専門店やさまざまなFC事業のメガフランチャイジーとなって店舗展開している流通グループで、2002年に神戸物産とFC契約を締結。以来、積極的に店舗展開を進め、現在の店舗数は188店で、出店地域は北海道から九州まで広がっている。同社にとっても、2023年3月期の売上高1769億2200万円のうち業務スーパー事業の売上が951億1900万円と53.8%を占めており、もはや基幹事業といえる。
このほか、中小規模のスーパーマーケットや食品専門店からの参入もみられる。大阪府北部を中心にスーパーマーケットを展開するローカルチェーンの佐竹食品(本社:大阪府吹田市)では、グループ会社のU&Sが手掛ける業務スーパー事業は40店舗の展開となり、基幹店舗ブランド「Foods Market satake」の11店舗をしのぐ業容だ。
このように既存の小売チェーンの新規事業や第2の店舗事業として取り入れられていることも「業務スーパー」の継続的な成長を支える一因となっている。
直近の業務スーパーの既存店の状況を仕入れベースでみると直轄エリアでは107.7%、全店ベースでは112.9%と2けた伸びを継続している(2023年10月期)。
2023年10月期は冒頭で紹介したように売上高、増加幅とも過去最高となったわけだが、利益面では円安による為替損の影響で経常利益は若干のマイナスとなっている。オリジナル商品で海外からの輸入に頼る部分が大きいためで、これが強みであると同時に、リスクの一つとなっている。しかし、それ以上の販売力と顧客の支持が業務スーパーの当面の快進撃を支えており、業務スーパーの店舗数と売上は今後も伸び続けていくといえるだろう。

