「SPA(製造小売業)からIT小売業へ」。ホームセンター業界の先頭を走るカインズを表現するとこうした表現がぴったりくる。市場全体では頭打ちといえるホームセンター業界で成長を続けるカインズの独自性と、今後の戦略を紹介する。

シリーズ「日本を代表する2大コングロマーチャントの歴史に学ぶ」
【前編】コンビニのセブン&アイ、生活フルカバーのイオン、両者が違う道を歩んだ理由

【後編】セブン&アイとイオン、「五重苦の日本市場」で進める成長戦略はどこが違う?

シリーズ「なぜ今、業態でなくフォーマット開発が必要なのか」
できるたびに企業が強くなる、ワークマンのフォーマット開発の取り組みと成果
大創産業「スタンダードプロダクツ」、強みを生かした新フォーマットの作り方

シリーズ「業界を代表するチェーンの強さの秘訣はどこにある」
売上高1兆円を突破、ウエルシアHDはなぜ業界1位の規模になれたのか
32年連続で増収、ベルクが「業界の優良堅実企業」であり続ける理由

シリーズ「絶好調企業の最新戦略をひも解く」
ディスカウントスーパーマーケットのオーケーはなぜ銀座に出店したのか

カインズが今後もホームセンター業界のトップを走り続けそうな理由(本稿)

<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。

 カインズ(埼玉県本庄市、高家正行社長)は北関東を拠点に28都道府県に234店舗を展開するホームセンターチェーンだ。2023年2月期の年商は5158億円。これはホームセンター業界の売上高ランキングではトップだ(下の図)。

 しかし、注目したいのはその店舗数。図の8チェーンの中で店舗数では7番目となる。カインズは他チェーンよりも店舗数が少ないのに年商は多い。つまり、1店舗当たりの販売効率が極めて高いのだ。カインズの年商を店舗数で割ると1店舗当たりの売上は22億円となる。

 下の図は経済産業省の商業動態統計でみた過去5年間のホームセンターの売上高と店舗数の推移だ。

 2020年度に売上高が伸びたのは新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、「巣ごもり消費」で除菌関連、マスク、園芸用品、インテリア関連などの需要が高まったため。こうした特殊事情を除くと、業界の売上規模は概ね3兆3000億円台で推移している。

 店舗数は2018年度の4338店舗から2022年度は4440店舗へと微増。こうした中、同期間にカインズは店舗数を219店から234店に6.8%増やし、年商を4214億円から5158億円へと22.4%も伸ばしている。

3タイプの店舗で出店し、シェアを高める

 カインズは群馬県にスーパーマーケットを展開してきたいせや(現ベイシア)のグループ企業で、1978年にいせやの新業態としてホームセンター1号店を栃木県にオープンしたのがスタート。ベイシアはグループ全体の年商が1兆947億円(2023年2月期)で、年商5158億円のカインズはその約5割を占めている。

 カインズは店舗と商品において、他のホームセンターにはない2つの特徴を持っている。

  第1の特徴が規模別に3タイプの店舗を持つことだ。

 1つ目が売場面積9000~1万5000㎡のスーパーホームセンタータイプ。日本DIY・ホームセンター協会が2022年に行った調査によるとホームセンター1店舗当たりの平均売場面積は4043㎡。この業界平均の2~3倍の売場面積を有するスーパーストアがこのタイプだ。現在は6カ所あるが、カインズモールという名で、自らが核店舗となり、テナントを誘致することでショッピングセンターを形成する。

 2つ目が売場面積6000~8000㎡の標準タイプ。最も店舗数が多いタイプで、同じ敷地にベイシアをはじめ、他のスーパーマーケットとの共同出店をする。

 3つ目が売場面積3000~5000㎡の中規模タイプ。商圏人口3万~5万人を対象にした地域密着型の店舗だ。

 カインズではこれらを組み合わせて出店をすることで、シェアを高めていく戦略をとっている。

カインズには「商品開発部」という部署は存在しない

 カインズの第2の特徴がプライベートブランド(PB)を軸とした商品戦略だ。

 カインズは2007年より、「SPA宣言」を行った。商品企画から設計、品質管理、物流、プロモーション、販売までを一貫して行う製造小売がカインズの商品面での最大の特徴で、同社のテレビCMを目にした人も多いことだろう。

 カインズの品揃えは約10万品目。その中でPBを含め、常時約1万3000品目のカインズオリジナル商品を品揃えする。商品の改廃も積極的に行い、年間に投入されるPBは約700品目。1日当たり2品目のPBが売場に並ぶ計算だ。

 だが、そのカインズには「商品開発部」という部署は存在しない。同社では商品開発をSBU(Strategic Business Unit:戦略的事業単位)で行い、「ライフスタイル」「日用雑貨」「ペット」「プロ」の計4つのSBU体制をとる。いわゆるメーカーや卸など仕入れ先による分類ではなく、顧客の生活シーンに対応した商品開発を推進するための体制となっており、2018年から導入された。

 例えば「ライフスタイル」のSBUが担当するのは清掃、台所、インテリア、収納関連などの家庭用品、DIY、園芸、家電、カー用品、キャンプカテゴリーまでと広範囲。いわゆる衣食住の空間をコーディネートできるように商品開発を進めている。

 それぞれの商品開発にはキーワードが設定され、例えば、清掃や台所用品では「使いやすい、収納しやすい、調理がしやすい」などを意味する「easy & smart」がキーワードで、カインズでは「楽カジ」という顧客に分かりやすい名称でカテゴリー化している。

 また、カインズでは2021年に本社敷地内に「ハウススタジオ」(スタジオとなるモデル家屋)を設置した。スタジオは「キッチンを再現したスタジオ」と「モダンな2層建て家屋を再現したスタジオ」「ガレージ風のスタジオ」の3タイプ。これらのスタジオの中で開発商品を含めたトータルコーディネートを再現することで、開発商品の企画のリアリティが増し、商品化へのスピードがアップする。2021年度には4つのSBUは、製品の機能や形状、センスなどの総合的な評価で知られるグッドデザイン賞を同時に獲得するまでになっている。

積極的にデジタルプレイヤーと提携

 カインズは2007年のSPA宣言に続き、2018年に「IT小売業宣言」を行った。「SBU戦略」に加えて、カインズは「デジタル戦略」「空間戦略」を合わせた3つの戦略を2019年に掲げたが、これは現社長・高家正行氏が着任した際に、発表されたものだ。

 この中の「デジタル戦略」は「商品が容易にみつかる、使い方が分かる買物体験の提供」と表現される。

 カインズではこれをカインズアプリのリリースによって格段に進展させている。このアプリは商品の在庫や棚位置まで表示できる機能をもっており、顧客が店内で欲しい商品を検索すると陳列場所がスマホ上に表示される。これは従業員向け売場・在庫案内の業務用アプリを発展させたものだった。

 また、顧客がオンライン購入した商品を店舗のピックアップロッカーで受け取ることができる「取り置きサービス」も行っている。デジタルと実店舗を組み合わせた購入体験の提供が狙いで、2023年7月には「店舗取り寄せサービス」、同年10月は「宅配サービス」へと、顧客の利便性をより高める取り組みに発展させている。

 実はこの裏側で、カインズは2019年にデジタル戦略本部を立ち上げている。戦略本部長には国内外のIT企業でデジタル事業をけん引してきた経験者を据え、その後、急ピッチで専任の人材の獲得を進め、現在では200人を超える専門チームになっている。

 また、開発の拠点として、東京都港区北青山に「CAINZ INNOVATION HUB」を設けている。こうした質量備えた人材と環境の整備でカインズはデジタル戦略を開花させている。

 2022年にはデジタル技術を活用したプライシングシステムの開発会社であるハルモニアと資本提携。その他、デジタルコンテンツの企画・開発会社との資本提携も行っている。カインズはM&Aをすることなく自前で店舗数を増やすことで売上拡大を実現してきたが、ことIT小売業への変化を加速させるためには、異業種であるデジタルプレイヤーとのタッグを積極的に行っている。

「空間戦略」で店舗とは異なる買い物空間をつくりあげる

 もう一つの「空間戦略」は一般的に店舗戦略といわれるものだ。カインズはこれを「新規出店の厳選や既存店改装の加速化、顧客体験を向上させる空間デザイン・実験・展開」と説明している。

 空間戦略を表す取り組みとしては先に挙げた店内の商品探しをサポートするカインズアプリとの連動が一つ。そして、ホームセンターならではの「DIY体験」が挙げられる。

 カインズは店内に「カインズ工房」を設けている。建築・工具・金物など関連商品の品揃えをして、購入商品を使って作品を製作する工房である。そこでは各種工具の使用方法や製作方法のワークショップが展開される。従業員の製作物もディスプレーされており、来店客に手軽にDIYに親しめるようなスペースとなっている。

 このスペースでは、小型家具、ミニチュアドール向けのミニチュア家具製作、プラントの植え替えといった女性が楽しめるようなワークショップも実施されている。こうしたDIY体験を提供することで、客層の拡大と固定客化を図ろうとしているわけだ。

 カインズでは、このDIY体験にもデジタル戦略を取り入れている。2023年10月には「CAINZ DIY MARKET」というオーダー家具のサイトをスタート。商品ラインアップの中から顧客が欲しい家具を注文すると必要な部材がカット済みで届けられるというサービスで、顧客はそれを組み立てて、塗装するだけ。注文はオンラインや店舗から受け付ける。

 このようにオンラインとリアルのシームレス化を進めるカインズ。IT小売業への変貌とは、規模別にくくられた従来の3タイプの店舗とは異なる買い物空間をつくりあげることだといえるだろう。

 店舗戦略とはいわずあえて「空間戦略」という言葉を使う理由がここにあり、この戦略により、カインズはホームセンター業界でさらに他チェーンとの差を広げようとしている。