●定番テーマを巧みに仕上げた娯楽作『ウエストワールド』(1973)脚本・監督:クライトン

「ウエストワールド」(1973) 写真=Photofest/アフロ

 精巧に創られた人間型ロボットにより、様々な時代やシチュエーションが体験できるテーマパークで、暴走を始めたロボットの脅威を描いたSFサスペンスで、クライトン自身が脚本・監督を担当しています。テクノロジーの暴走という定番テーマを描いた作品ですが、最怖ロボットであるスキンヘッドのガンマンを演じる名優ユル・ブリンナーが、「ジュラシック」

 シリーズのTレックスなみの存在感を放ち、見応えのあるものとなっています。1976年には続編の『未来世界』も製作されました。こちらはクライトンのクレジットはありませんが、ブリンナーのガンマンは再登場します。

 

●センスの良さが光るSFアクションの好編『未来警察』(1984)脚本・監督:クライトン

「未来警察」(1984) 写真=Everett Collection/アフロ

 ロボットが暮らしに溶け込んでいる近未来を舞台に、ロボットがらみの犯罪に立ち向かう警察チームの活躍を描いたSFアクション。(といっても残念ながら人間が乗る人型汎用メカなどは出てきませんが。)

 クライトン本人が脚本と監督を担当した映画オリジナル作品である本作の魅力は何といっても絶妙な「ベタさ加減」にあります。クモ型の暗殺ロボや高速で地を駆ける爆弾メカなど、よくありそうなSFガジェットが明快な演出で活き活きと描かれています。主演は当時人気スターだったトム・セレック。ロックバンドKISSのジーン・シモンズが悪役で活躍します。

 

●丁寧な時代描写の快作『大列車強盗』(1978)原作・脚本・監督:クライトン

「大列車強盗」(1978) 写真=Photononstop/アフロ

 ヴィクトリア朝のロンドンを舞台に、列車輸送中の軍の金塊を狙う泥棒紳士とその仲間の冒険を描いた歴史活劇映画。自ら初挑戦した歴史小説をベースに、緩急に富んだ逆転劇とアクションが展開される快作です。日本での知名度は低いかもしれませんが、映画監督マイケル・クライトンを語る上で外せない1本です。主演は初代ジェームズ・ボンドのショーン・コネリー。

 

●医療エンタテインメントの才人がタッグを組んだ『コーマ』(1978)原作:ロビン・クック「コーマ - 昏睡」脚本・監督:クライトン

撮影中の「コーマ」(1978) 写真=Everett Collection/アフロ

 自ら医師免許を持ち、ジェフリー・ハドソン名義で書いた医療サスペンス小説『緊急の場合は』(1969)でアメリカ探偵作家クラブ主催のエドガー賞最優秀長編賞の受賞歴もあるクライトンが、やはり医師免許を持ち数々の医療エンタテインメント小説を書いてきたロビン・クックの原作を脚本・監督で映画化した異色作です。

 本作の特徴は何といっても病院内の個性的なビジュアルで、特に脳死患者の収容されている研究室のなど一度見たら忘れられないフィクションとリアルの入り混じった世界が覗ける佳作です。主演の女医にはブライアン・デ・パルマ監督の『愛のメモリー』などで知られるジュヌヴィエーヴ・ビジョルド。共演はマイケル・ダグラス、リチャード・ウィドマーク。

 そして……

 ということで、いささか偏ったセレクトで映画作家という視点からマイケル・クライトンの代表作をご紹介してきましたが、これ以外にもクライトンが主に「企画」として参加し世界的にヒットしたTVドラマ『ER』(1995~2009)や、『ジュラシック・パーク』の成功以後のほとんどの小説が映画化されているなどの功績は言うまでもありません。

 また近年では『アンドロメダ。。。』(『アンドロメダ・ストレイン』(2008))や、『ウエストワールド』(2016~)がフォーマットをTVに変えて再映像化されているなど、現在にも通じる先見性を持ったクリエーターであったことは忘れてはならない点でしょう。また、その多くの作品が科学の進歩とそこから生じる新たな脅威の克服というテーマを見ることができます。

 こうした観点からみると、クローン生命の尊厳という隠れテーマをきちんと押さえた『ジュラシック・ワールド』3部作も、クライトンの遺伝子を確実に継承した作品といえるのではないでしょうか。