冒頭の4回転サルコウは成功。2つ目の4回転ループでは手をついたが、そこからはジャンプを1つ1つ成功させる。伸びやかなスケーティングに裏打ちされた演技に鍵山の特質がはっきり示されていた。

 その中でのつまづきは、トリプルアクセルが1回転にとどまったことだった。2つのミスが響き、宇野に次ぐ銀メダルで大会を終えた。

2022年3月26日、世界選手権でFS「グラディエーター」を演じる鍵山 写真=Raniero Corbelletti/アフロ

「気持ちの面で最後の最後になって緊張しました」

 何が緊張をもたらしたのか。

「優勝や表彰台は気にしないようにと思っていたけれど、『もしかしたら』という気持ちが、心のはしっこにあったのかもしれません。そこで緊張感を高めてしまって、演技に出てしまったかなと思います」

 北京オリンピックまでを考えれば、優勝を意識するのも無理のないことだった。ただ、それをどう演技へのエネルギーに組み替えるか、そこがうまくいかなかったことがもたらしたミスだった。

 

宇野昌磨から学んだこと

2021年に続き、2022年の世界選手権で銀メダルを獲得した鍵山 写真=AP/アフロ

 だからこそ、あらためて学ぶこともできた。例えば、宇野の姿勢だ。今シーズン、フリーでの4回転ジャンプ5本という高難度の構成に取り組み続けたのをはじめ、宇野は最後まで挑戦を貫き、その中での成長を心がけてきた。

「一緒に練習をしていても圧倒されることが多いし、これからも宇野選手を追いかけていきたいと思いました」

 試合を終えて、鍵山は語る。練習する機会も少なくない宇野の、練習や試合でのスタンスを知るからこそ、世界選手権で優勝する姿を見て、宇野の姿勢からも学ぼうと考える。取り入れたいと思う。

 新たな課題も見い出した世界選手権は終わった。

 ただ、課題をみつけられたのも、世界の頂点を現実のものとして捉えられる、視野におさめる位置にまでたどり着いたからこそ。そこまで階段を上がることができたからできた経験だ。シーズンを振り返れば、たしかなステップアップを遂げて、進んできたことも、まぎれもない事実だ。

「今シーズンはほんとうにいろいろあって、苦しさとか迷いもあったけれど、徐々に自分のやるべきことを見つけることができました」

 自身、手ごたえを得て終えることができた。それは次のシーズンにもつながる。

 4年に一度のシーズンを走り抜けた鍵山優真は、4月、大学生となった。

 さらなる飛躍を期し、ここからまた、より高みを目指し、走っていくはずだ。その先にどのような世界が開けていくのか、鍵山もきっと楽しみにしている。