2021年は、新型コロナウイルスの蔓延、という逆風のなかにも関わらず、いくつかの新しいシャンパーニュが日本上陸を果たした。そのなかのひとつが『テルモン』。それほど大規模な生産者ではないけれど、レミー コアントロー グループのシャンパーニュ ブランドということもあり、サステナビリティへの大胆なアプローチで話題をさらった。そして今、いよいよそのシャンパーニュのラインナップも増えつつあり、日本市場にその実力を問うタイミングがやってきた。黒船襲来となるか?
 

 

サステナブルなシャンパーニュとして登場した『テルモン』だけれど……


サステナビリティは、シャンパーニュ地方にとっては喫緊の課題だ。

例えば、2021年は、3月が温暖で、ブドウの芽吹きが早かったのに、4月に氷点下を下回る寒波が到来。これでブドウの芽が凍ってしまう被害が、フランス各地のワイン産地で出た。シャンパーニュ地方も例外ではない。

なぜ、こういう気候になるのか。正確なところは誰にもわからない。ただ、このような予想外の気候現象に影響を受けたり、ブドウの収穫時期が、年々早まる傾向にあるのは事実だ。

シャンパーニュの売りは、上質な酸味と泡立ち。日中に飲んでも、すっと背筋が伸びるような、明るさ、ポジティブさはシャンパーニュならではのもの。このキリっとしたスタイルは、シャンパーニュ地方の冷涼な気候に依るところが大きい。

とはいえ、である。もちろん、いまもシャンパーニュは冷涼産地だけれど、さらに北、ユーラシア大陸ならばルクセンブルク、グレートブリテン島ならばその南部が、ブドウ栽培の北限として、安定的に高品質なブドウとワインを生産しつつあるのが現在の状況。将来、この北限がもっと北に行ってしまったら、はたして、シャンパーニュはそのスタイルを保てるのだろうか?

シャンパーニュ地方が、独自の「シャンパーニュの持続可能なブドウ栽培」認証を採用し、シャンパーニュ全体で2025年までに除草剤をゼロ、 2030年までに100%環境認証取得という目標を設定して、すでに20年以上、目標達成のためのさまざまな努力、協力関係の構築を実現している背景には、そんな事情があるはずだ。
 

ところが、である。オーガニック認証でいうと、実は「認証を受けているブドウ畑は、シャンパーニュ地方全体の4%にも満たない」とシャンパーニュ『テルモン』は言う。そんななかでテルモンは、2025年までに自社の全ての畑を100%オーガニックに転換し、2031年までには、パートナー生産者も含む、テルモンで使うブドウの畑すべてをオーガニックへと転換することを標榜している。

また、2021年6月からは「最良の包装とは包装しないこと」として、ボックスを廃止。ボトルのみでの流通を行っている。基本的に特別なワインであるシャンパーニュにおいて、ボックスが一切存在しない、というのはかなり挑戦的だ。

そのボトルも、再生ガラスが使えない透明ボトルは中止し、85%の再生ガラスを使用したグリーンのボトルのみを使用。ワイナリーなどで使用する電力は、当然のように100%再生可能エネルギー。流通は航空便を不採用、CSRスコアに応じて輸送業者を選択、と、実は、ワイン造りそのものよりも、圧倒的に環境負荷が高い、パッケージング・流通での仕組みの見直しも徹底している。

その姿勢に共感して、2022年2月には、熱心な環境保護活動家として知られるレオナルド・ディカプリオ氏も株主に名を連ねた。

写真:レオナルド・ディカプリオ氏 撮影:Andrea Raffin

サステナブルだけが見どころではなさそうだ

と環境方面で目立つテルモンだけれど、これだけ肝の座ったことができるのは、現在ここが『ルイ13世』や『レミーマルタン』で知られる、レミー コアントロー グループのという大資本を背景にもつシャンパーニュ ブランドだから、というのも無関係ではない。日本には2021年7月にレミー コアントロー ジャパンの手で上陸したばかりだ。

新型コロナウイルスの蔓延が引き起こした混乱のなかでの上陸だったこと、上陸してすぐは必然的に話題になったことから、肝心のシャンパーニュが最量販品の「レゼルヴ・ブリュット」くらいしか、まともに手に入らなかったのは残念だったとおもう。ダムリーという、シャンパーニュ地方の中心地、エペルネからやや西にあり、シャンパーニュ好きでもあまりイメージが湧きにくい産地の個性や、そこで、お金の心配なく、ワイン造りに没頭する醸造と栽培の責任者 ベルトラン・ロピタルの腕前を感じ取るには「レゼルヴ・ブリュット」はやや物足りなかったのだ。
 

醸造と栽培の責任者 ベルトラン・ロピタル。1912年にシャンパーニュの造り手として独立したアンリ・ロピタルから数えて4代目。1999年に父のセルジュ・ロピタルからセラーマスターを受け継いだ。自然に従うスタイルを貫く。

大規模生産者ではないけれど、自社畑で約24.5ha 、契約畑56.5ha。年間生産量約30万本というのはシャンパーニュではほどほどの規模。これくらいになってくると、ノンヴィンテージのブリュットである「レゼルヴ・ブリュット」で、いきなり冒険的なことはしてこないものだ。

だから、スタンダードなロゼである「レゼルヴ・ロゼ」そしてオーガニックブドウ100%の 「レゼルヴ・ド・ラ・テール」も準備が整った現在、日本でも、ようやく、テルモンの個性の片鱗を味わえるようになってきた、というのが現状だろう。そして、この両者は、実際に、それぞれに個性的だった。

「レゼルヴ・ロゼ」の面白さは、ロゼでありながら、ピノ・ノワールを使っていないところだ。シャンパーニュでロゼといえば、ピノ・ノワールが生命線、という先入観を打ち破ってのシャルドネ87%、ムニエ13%。
 

テルモン レゼルヴ・ロゼ
テルモンはパッケージがなにもないので、情報は全部ラベルに書いてある。使用品種とそのパーセンテージ、使用ワインのヴィンテージと割合、ドザージュ、デゴルジュマンの年、醸造法は表ラベルに。それ以上の詳しい情報を知りたければ裏ラベルのQRコードから。ちなみに現在はまだ透明ボトルだが、今後は、グリーンボトルに変わる。

造り方は定番のブレンド法だけれど、ダムリーはヴァレ・ドゥ・ラ・マルヌがはじまるところ。得意とするシャルドネに、地元の誇り、ムニエをブレンドしてロゼを造っている。飲んでも実際、ピノ・ノワールの味はしない。また、ダムリーは石灰の層がかなり深いところにあるとのことで、シャルドネもミネラル感がそれほど強くない。2015年のブドウを中心に、ドザージュ8.4g/l、マロラクティック発酵はやらずに2016年に瓶詰めして2021年にデゴルジュマンという造り方も興味深い、現行の「レゼルヴ・ロゼ」は、酸味はシャープながら刺々しさはなく、酵母由来の香ばしさと旨味があり、温かみすら感じさせる。エペルネでシャルドネを得意とするメゾンの長期熟成シャンパーニュを連想するような、高級感が漂うワインだ。
 

テルモン レゼルヴ・ド・ラ・テール

「レゼルヴ・ド・ラ・テール」の性格は、「レゼルヴ・ロゼ」とはまた、大きく異なる。こちらは、シャルドネ66%、ムニエ 34%とさらにムニエのパーセンテージが上がるのだけれど、ドザージュは5.9g/lとエクストラ・ブリュットに相当し、2017年のブドウのみを使うのでヴィンテージシャンパーニュということになる。マロラクティック発酵をして2018年に瓶詰め、2021年にデゴルジュマン。レモンのような酸味が美しく、また支配的だが、それはまろやかに落ち着き、酵母の旨味も十分に感じられる。若々しさと熟成感のあいだの絶妙なバランスだ。ヴァレ・ドゥ・ラ・マルヌのブドウだけれどコート・デ・ブランの北の方のシャルドネも入っている、と言われれば信じそうになる。ここまでやってくれるなら、ボディ感がもうちょっと欲しくもなるけれど、そうすると飲みやすさが陰ってしまうかもしれないので、これで正解なのだろう。とはいえ、あと5年置いてみたらどうなるのか?には、興味が湧く。

この両者、だいたい1万円程度で買えるのだけれど、大手メゾンでこの雰囲気が欲しいとなると、倍程度の値段の、かなり本格的なシャンパーニュになってしまうはず。安くはないとはいえ 、価格も味わいもまだ気軽さもあるところでこの品質、というバランスはお買い得だ。

テルモンでは、このスタイルを次の同名商品でも続けるかどうか、わからないのだそうで、「レゼルヴ・ド・ラ・テール」にしても、オーガニックのブドウを使う、というのは変わらないにしても、ヴィンテージシャンパーニュでエクストラ・ブリュット、というところは必須の条件ではないという。だから「小規模生産者だから当たり外れはあるもの。デビューしたときは当たりだった」と評することになるのか「自然派のシャンパーニュらしい今どきのスタイルで、毎年楽しみ」と評することになるのかは、もう数年、待ってみないとわからない。

いずれにしても「レゼルヴ・ブリュット」だけをもって、テルモンを評価してしまうのは早計だ。

実は京都で飲みました

と、テルモンの紹介は、実は今回の話のまだ、前半部分にすぎない。筆者、「レゼルヴ・ブリュット」「レゼルヴ・ロゼ」「レゼルヴ・ド・ラ・テール」の3種を、京都にある『HOTEL THE MITSUI KYOTO』で開催された「サステナブル SHOKADO 昼食会」というイベントにて『自然耕房あおき』という農業法人の野菜を使った松花堂弁当とともにいただいた。開催地のレストランは、『結一(YUI)』といって、「サステナブルな日本料理」をコンセプトに立ち上がったばかり。そのオープニングを、サステナブルなシャンパーニュで飾ったのだった。

サステナブル SHOKADO
2022年3月19日(土)限定のイベントとして『HOTEL THE MITSUI KYOTO』にて開催された昼食会で提供された、一の重は季節感に溢れた純和風、二の重はフレンチの技法を取り入れた品々という松花堂弁当。

HOTEL THE MITSUI KYOTOは、2020年に開業したばかりの京都のラグジュアリーホテル。テルモン同様、コロナ禍という逆風のなかでの船出となり、これからいよいよ、花開こうとしている。次のページでは、このホテルを紹介したい。