(3)職人の技量も違う
靴を至近距離から眺めることはあまりないかもしれないが、ほかの靴とよく見較べてほしい。〝ジョンロブ〟の靴はステッチがほかより圧倒的に細かいし、コバの刻みが非常にくっきりと入っていることがわかる。そんな職人の超絶技量がひと目で分かるのが、革の内部に糸を通すことで、その表面に浮き出たあばらのように装飾的な抑揚を与えた、「スキンステッチ」というディテールだ。
(4)木型が違う
人間の足を立体的に捉えてつくった〝ジョンロブ〟の木型は、まるで生き物のように曲線で構成された、有機的なフォルムが特徴。当然フィット感にも優れているし、見た目にも美しい。
職人たちの腕の見せ所「イヤーモデル」
マニアにとっては極めて初歩的な内容かもしれないが、以上が〝ジョンロブ〟が究極の既製靴たる所以。もちろんアンダーステイトメントをモットーにする英国ブランドゆえ、普段はこういったこだわりを、ことさらに主張することはない。
しかし年に一度だけ、こちらの職人たちが、自分たちのものづくりを高らかに誇る〝舞台〟が用意されている。10月25日、すなわち靴の守護聖人である聖クリスピンの日に発売される限定品「イヤーモデル」のことである。
実用性だけに捉われることなく、〝ジョンロブ〟にしかできない素材やレザーを惜しみなく注ぎ込んだ、アートピースと呼ぶにふさわしい靴が例年ここから生まれているのだが、2021年モデルの希少価値はなかでも抜きん出ている。なぜならダブルモンクストラップの名品『ウィリアム』の誕生75周年を記念してつくられた、その名も『ウィリアム75』だからだ。
超絶技巧の結晶『ウィリアム75』
手仕上げでムラを演出した艶っぽいカーフや、美しく磨き上げられたメタルのバックルだけに見惚れていると、この靴の真骨頂には気付けない。なんとこの靴、サイドにもヒールにも継ぎ目が見当たらない。中心をくり抜いたような形状の一枚革で仕立てた、いわゆるホールカットなのである!
えっ、トウのキャップ部分を継ぎ合わせているじゃないかって? いやいや、こちらは甲に切り込みを入れ前述のスキンステッチを施すことによって、トウキャップに見たてているのだ。ステッチをコバまで施さず途中で消しているのは、その技法をあえて誇示したものと思われる。言うはたやすいが、このスキンステッチという手法は2本の猪の毛針を使って革の断面をすくい縫いするという、まさに超絶技巧! 数寄者が見れば驚愕のディテールである。
ストラップの内側には2021年を表す「XXI」の文字を手縫いで施すなど、嗜好品としての魅力を極限まで高めた、『ウィリアム75』。正直いって履くのはもったいないくらいだが、履かねば人には見せられない。靴好きにとっては、なんとも贅沢な悩みを教えてくれる1足である。
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