(英エコノミスト誌 2024年5月4日号)

AIの進歩でフェイク・ニュースを作りやすく、また見分けにくくなっている(Pixabayからの画像)

必要なのは関係者間の連携とデータへのアクセス改善だ。

 昨年夏にハワイを襲った山火事は米軍が秘密裏に開発している「天候兵器」の試験で始まったとか、米国の非政府組織(NGO)がアフリカでデング熱を蔓延させているといったことをご存じだろうか。

 あるいは、ウクライナ大統領夫人のオレーナ・ゼレンシカ氏がニューヨーク・マンハッタンの五番街で計110万ドルもの爆買いをしたことはどうだろう。

 あるいは、インドのナレンドラ・モディ首相への支持を新曲のなかで表明した歌手がおり、その名はマヘンドラ・カプール(2008年没)だという話を聞いたことはあるだろうか。

民主主義を脅かす偽情報の蔓延

 もちろん、これらはすべてデタラメだ。

 人をだますために作られた「偽情報」の例だということだ。今日ではこのような荒唐無稽な話が、ますます高度になっていく情報操作活動によって世界中にばらまかれている。

 不気味なほど信憑性のある写真や動画、音声が、人工知能(AI)を利用した最新のツールやソーシャルメディア・アカウントの複雑なネットワークで制作・共有され、事実と作り話を区別しにくくしている。

 今年は世界の半分で国政選挙が行われる年であるだけに、テクノロジーのせいで偽情報が手に負えなくなり、民主主義が攻撃を受けて再起不能になってしまうのではないかとの懸念がなおいっそう強まっている。

 この問題は、果たしてどの程度懸念すべきなのだろうか。

 偽情報の歴史は、2者による口論と同じくらい古い。

 例えば、古代エジプトに君臨したラメセス2世は紀元前1274年のカデシュの戦いに勝たなかった。引き分けと呼ぶのがせいぜいだった。

 だが、本人が勝利を記念して建てたモニュメントからは、そんなことは誰にも推測できないだろう。

 また、古代ローマの将軍だったカエサルによるガリア戦争の記述は、歴史書であるのと同じくらい政治的プロパガンダでもある。

 印刷技術が発明されても事態は改善しなかった。

 イングランドが内乱に陥った1640年代には言論統制が機能しなくなり、「下品な作り話の小冊子」に対する懸念が強まった。

 インターネットのせいで問題は大幅に悪化している。

 ソーシャルメディアを使えば事実に反する情報を低コストでばらまくことができるし、AIの登場でそういった情報の制作も安価にできるようになった。