あるトンネルでは、トンネルの出口(ポータル)で写真を撮ると、コンクリートの側壁が絵画の額縁のように見え、誰がモデルになってもシルエットと外の大自然が一体になる好スポットがある。そんな案内もさりげなくしてくれる。

 ガイディングのセンスもあるが、上原さん自身が「サポーター」などさまざまな人たちから傾聴して学んだことも多いという。そんな上原さんの人柄が多くの人を惹きつけ、「廃線ウォークサポーター」になる障壁を低くしているように感じる。

絵になる一枚が撮影できるポイントの案内もある

地元事業者との連携体制がイベント運営を軌道に乗せた

 次の下り第3トンネルでは、途中で突然信号機が点灯するサプライズや、運行当時、保線員が使用した待避坑内に残る非常電話を片手に記念撮影もできる。

トンネル内の待避坑に残る非常電話

 さらに、最近の取り組みでは、地元・安中で天保年間に創業した老舗の醤油蔵元・有田屋がこの待避坑を活用し、約1年かけて醤油を醸造した。その名も「碓氷隧道仕込天然醸造醤油」で、ワインのようなスタイリッシュなボトルが素敵だ(店舗または有田屋ネットショップで販売している)。

 温度、湿度が年間を通じて比較的一定なトンネル内でワインや焼酎を保管、熟成させる事例は他地域でも見られるが、中山道の宿場町・安中ならではの銘品である醤油とのコラボだ。それによりトンネルを利活用し、地域における新たな消費を生み出している。また、売り上げの一部は碓氷峠のトンネル群を保全するために寄付されている。上原さんをはじめ安中市観光機構と老舗事業者の良好な信頼関係があってこその取り組みだ。

退避坑で熟成された地元老舗店の特製醤油(写真提供:一般社団法人・安中市観光機構)
スタイリッシュな「碓氷隧道仕込天然醸造醤油」

 このトンネル内では、碓氷峠の鉄道運行当時の様子や機関士が歴史を語る実写ビデオがトンネルの側壁を使用して映写される。