(英エコノミスト誌 2024年1月13日号)

黄海で拿捕、イエメン沖に停泊させられた日本郵船の貨物船(2023年12月5日、写真:ロイター/アフロ)

米国によるフーシ派攻撃は、海をめぐってエスカレートする争いの一環だ。

 数十年にわたって穏やかだった世界の海で、嵐が発達しつつある。

 紅海では武装組織フーシ派がドローン(無人機)やミサイルでの船舶攻撃を繰り返し、米軍をばかにする仕草を見せながら、スエズ運河でのコンテナ輸送を90%減少させている。

 黒海は機雷と破壊された軍艦でいっぱいだ。

 ウクライナは今年のうちに、18世紀の女帝エカチェリーナの時代から基地にされているクリミアからロシア海軍を追い出したいと思っている。

 バルト海や北海は、海底を走るパイプラインや通信ケーブルの破壊工作という影の戦争に直面している。

 そしてアジアでは、第2次世界大戦以来の大規模な海軍力増強が進められており、中国が台湾に統一を迫ろうとしている一方、米国が中国による侵攻を抑止しようとしている。

 13日の台湾総統選挙が終わった後、緊張がさらに高まるかもしれない。

再び争いの場と化した海

 これらの出来事が重なっているのは偶然ではなく、この惑星の海洋に大きな変化が生じている兆しだ。

 世界経済はまだグローバル化されている。

 貿易は数量ベースで全体の約80%、金額ベースで50%がコンテナ船やタンカー、貨物船など10万5000隻の船舶を使って行われている。

 昼夜を問わず定期的に海を渡って人々の生活を支えているが、当の人々はそれを当たり前だと思っている。

 しかし、超大国同士の対立とグローバルなルールや規範の衰退は、地政学的な緊張が深刻化していることを意味する。

 必然的で、まだ過小評価されているその結果は、海洋が第2次世界大戦後で初めて争いの場になっていることだ。

 海での機会と秩序の探求には長い歴史がある。

 オランダの法学者グロティウスが公海自由の原則を唱えたのは17世紀のことであり、英国が海軍と港湾・砦のネットワークを用いてその原則を施行したのは19世紀のことだった。

 開かれた海という概念は1945年以降の秩序に採用され、1990年代からは海の世界がグローバル化と米国の国力の台頭を反映した。

 そこでは効率の高さと極度の集中が重視された。

 今日ではコンテナの62%がアジアと欧州の海運会社5社によって運ばれ、船舶の93%が中国、日本、韓国で建造され、船舶の86%がバングラデシュかインド、またはパキスタンでスクラップにされている。

 米国海軍は、海洋での安全を守るという特殊な役目を独占に近い形で担っており、280隻を超える軍艦と34万人の兵士を投じている。