(英エコノミスト誌 2023年12月2日号)
ビジネスにおいては、まさに常識の鑑だった。
毎年5月になると、投資会社バークシャー・ハザウェイの本拠地である米ネブラスカ州オマハには、同社のリーダー2人の姿を拝んで喜びに浸ろうとする忠実な信者が何万人も押しかける。
1人は気さくなことで知られるウォーレン・バフェット。もう1人は、当意即妙なコメントで知られるチャーリー・マンガーだ。
だが、本当にコアな信者にとっては、何年もの間、もっと閉鎖的な会合がロサンゼルス郊外の緑豊かな街パサディナで催されていた。
筆者の現在の住まいからも程近いパサディナ・コンベンション・センターでは、マンガー氏が1人で壇上に上がり、さりげないウィットにあふれた話を長々としていった。
録音は禁止されていたが、何人もの人が話の内容をノートに書き留めようと一心不乱に手を動かした。
「良識の教会」と呼ばれたワンマンショー
この会合でマンガー氏が登壇したのは2011年が最後だった。
11月28日にロサンゼルスの病院で99歳で亡くなったマンガー氏はその当時87歳で、かくしゃくとしていた。
会合は金融コングロマリット(複合企業)のウェスコの株主総会で、2011年はマンガー氏が同社会長として出席する最後の総会だった。
ウェスコがバークシャーに完全に吸収されることになり、ワンマンショーも終わりを迎えたわけだ。
マンガー氏の話は3時間に及んだ。
「皆さん、そろそろ新しいカルト・ヒーローを見つけないといけないよ」といつものように優しい言葉で聴衆をからかった。
だが、同氏は明らかにこの講演を――その言葉を書き留めた聴衆の一人に言わせれば、「良識の教会」による説教を――楽しんでいた。
聴衆のスタンディング・オベーションには笑顔を返した。
筆者が取ったこの最後の講演のメモを読み返すと、テーマをランダムに選んでしゃべっていたようにも思える。