東日本大震災に伴う津波で大きな被害を受けた仙台市の住宅街。2011年3月12日撮影(写真:AP/アフロ)

(科学ジャーナリスト:添田 孝史)

「津波堆積物」という言葉を東日本大震災(2011)の前から知っていた人は少ないだろう。

 津波堆積物は、地層に残された過去の大津波の痕跡だ。古文書だけではわからない過去の地震の様子を詳しく知り、将来の地震予測をするための有力な研究方法になっている。

湿地の黒い土壌の上に、貞観地震の津波が運び込んだ白っぽい砂の層が載っているのがわかる。仙台市若林区の田んぼから掘り起こされたものだ=茨城県つくば市の地質標本館で
拡大画像表示

 宮城県や福島県で津波堆積物を調べていた研究者たちは、大津波が内陸深くどこまで襲来するか、2010年までにほぼ予測できていた。いつ起きてもおかしくないとも考えていた。

 その危険性を地域住民に伝えられていたら、東日本大震災の死者は減らせていたかも知れない。しかし、その知らせは紙一重の差で間に合わなかった。大津波の危険性をはっきりさせたくなかった東京電力の裏工作が、それを遅らせてしまったように見える。