(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
9月5日月曜日、英国の与党・保守党の党首選の最終結果が発表された。8名の候補者のうち、5回の議員投票を勝ち抜いたリシ・スナク元財務相とリズ・トラス外相の一騎打ちとなったが、一般党員による郵送投票が開票された結果、スナク元財務相よりも一般党員の支持を2万票余り多く集めたトラス外相が新党首に就任する運びとなった。
リズ・トラス外相は9月6日の午後にエリザベス2世女王陛下の任命を受けて、第78代目の英国の首相に就任した。保守党出身の国会議員の評価はスナク元財務相の方が高かったが、一般党員の人気を集めたのはトラス外相の方だった。
トラス外相が一般党員の人気を集めた最大の理由は、積極的な物価対策を公約に掲げたことにある。
英国は今歴史的なインフレ加速に見舞われている。最新7月の消費者物価(図1)は前年比10.1%上昇と、1982年以来の伸び率を記録した。
インフレが加速した主な理由は、食品とエネルギーの価格高騰にある。同月の消費者物価の食品(酒、飲料、タバコを含む)の価格は前年比11.5%、エネルギーは同66.4%とハイピッチで上昇しているが、食品やエネルギーの影響を除いたコア消費者物価の伸びも顕著に加速している。
【図1 英国のインフレ率と政策金利】
こうした状況に鑑み、英国の中央銀行であるイングランド銀行(BOE)は利上げを進めており、8月の金融政策委員会(MPC)では約27年ぶりとなる0.5%ポイントの利上げを実施。政策金利を1.75%にまで引き上げている。
とはいえ、英国のインフレにはまだ鈍化の兆しがうかがえない。消費者物価の先行指標となる生産者物価(出荷ベース)は前年比17.1%上昇と、13カ月連続で伸びが加速している。賃上げを要求するデモやストも相次いでおり、社会は徐々に不安定化している。そのため当局にとって、インフレ退治は喫緊の課題だ。