果たして、東京オリンピックでボクシングは観られるのだろうか。「奈良判定」が今年の「ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされるなど、ボクシングはいまや疑惑の競技のひとつである。
ちょっと前まではボクシングだけは八百長がないと思われていた。それがいつからだろう。エンターテインメント性が高まるほど、不信感が付きまとい、ついにアマチュアの世界にまでそれは及んでしまった。
厳しいトレーニングと減量。映画の世界ですらボクシングものはうそがつけない。だからこそ、人々は熱狂し、多くの名作が大衆の心をとらえてきた。
ボクシング映画にまた一つ加わった傑作
ボクシングの試合に感動したシルヴェスター・スタローンが脚本を書き上げた『ロッキー』シリーズは全6作まで作られ、ロッキーの引退後を描いた『クリード』も二作目が公開間近でいまだに高い人気を誇る。
妻を失った元チャンピオンが再起を図る『チャンプ』や『サウスポー』。おっさんボクサーの奮闘を描いた『クライング・フィスト』、ヒラリー・スワンクがアカデミー賞主演女優賞に輝いたクリント・イーストウッドの『ミリオンダラー・ベイビー』など、挙げればきりがない。
ロバート・デ・ニーロが体重を25キロも増やした『レイジング・ブル』をはじめ、どんなボクシング映画でも話題になるのが、出演者たちの肉体改造。一朝一夕でできるものではなく、何か月もかけて、しかも実際に競技しないとすぐ見抜かれてしまうボクサーの体型。ロッキーが惜しまれながら引退してしまったのはごまかしが一切、効かないからだろう。アクションはやれるスタローンでもボクシングはNG。それだけ苛酷な役作りが求められる。
日本でも、菅田将暉『あゝ荒野』、安藤サクラ『百円の恋』、山下智久『あしたのジョー』など、数々の人気者がボクシング映画に挑んでいる。女だろうが、アイドルだろうが関係ない。大きくなった筋肉と極限まで落とした体脂肪。作り物の映画という世界でありながら、スクリーンが露にする、彼らが役にかける本気度に誰もが心酔する。
そんなボクシング映画の傑作のひとつに新たに加えたいのが、英国人ボクサーの壮絶な自伝を映画化した『暁に祈れ』である。
主人公ビリー・ムーアを演じたジョー・コールは次世代英国イケメン俳優の呼び声高い注目株。監督から「まだまだボクサーの体じゃない」と追い込まれ、作り上げた体は完全にボクサー。劇中では思わず目を覆いたくなるような戦いや試合の場面が繰り広げられるが、実際にボクシング、そしてムエタイを学んで挑んだ彼の気迫に最後は手に汗にぎる興奮が待っていた。「抜け出せ! 這い上がれ!」。まるで目の前で試合を見ているかのように心が叫んでいた。