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 デジタイゼーション、デジタライゼーションを経てデジタル化の最終目標となるデジタルトランスフォーメーション(DX)。多くの企業にとって、そこへ到達するためのルート、各プロセスで求められる施策を把握できれば、より戦略的に、そして着実に変革を推し進められるはずだ。  

 本連載では、『世界のDXはどこまで進んでいるか』(新潮新書)の著者・雨宮寛二氏が、国内の先進企業の事例を中心に、時に海外の事例も交えながら、ビジネスのデジタル化とDXの最前線について解説する。第5回は、ロボアドバイザーのウェルスナビとの資本業務提携などでデジタル化を推進するMUFGのDX戦略について解説する。  

<連載ラインアップ>
第1回 「やってみなはれ」、サントリーが挑むDXと新浪社長が目指す生成AIの活用とは
第2回 ファストリ、デジタル化でサプライチェーンを“完全可視化”する本当の狙い
第3回 AIとデータ活用で何を実現?リクルートが目指す新たなビジネスモデルの真価
第4回  イオン、ライオン、楽天、先進企業が推進するデジタルを駆使した物流改革
■第5回  デジタルで顧客向けサービスを統合、MUFGが目指す「一人別提案」への道筋(本稿)
■第6回  JR東日本、DX推進で価値創造ストーリーを転換(仮題)



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着々とデジタライゼーションを進めるMUFG

 現在、金融業界では、競争が激しさを増しています。その中心にあるのは、2024年1月からスタートした新しい小額投資非課税制度(新NISA)です。

 新NISAは、非課税保有限度額の生涯投資枠(5年)が1800万円に設定され、非課税保有期間が無期限な上、投資枠の再利用も可能なことから、スタート後の1カ月で、新NISA口座経由の購入額が1兆8000億円を超えています(日本経済新聞社調べ2024年2月14日発表)。

 これは旧NISAの3倍のペースで、その内訳は、個別銘柄株への投資が41%であるのに対して、投資信託が59%を占めており、米国など世界の株式に投資する商品に人気が集中しています。

 若い世代や投資初心者ほど投資信託を選ぶ傾向が強いことから、これから長期の資産形成を目指すこうした層をどのようにして取り込むかが、競合他社に先駆けて競争優位を獲得する鍵を握ることになります。

 このように激しさを増す競争を見据えて、デジタライゼーションを着々と進めているのが、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)です。MUFGは、2024年2月にウェルスナビと資本業務提携契約の締結を発表しています。MUFGによる出資額は約156億円で、出資比率は15.55%を占めることから、持ち分法適用会社としてウェルスナビをグループ傘下に収めることになります。

 既にMUFGは、中期経営計画(2021~2023年度)にDX重視の考えを盛り込み、顧客に対するデジタルサービス接点の強化と、消費やサービスのデジタル化を推進して企業変革を組織的に進めていく戦略を明確に打ち出しています。

 この戦略の狙いは当然ながら顧客獲得にありますが、MUFGが顧客の生涯を支えていくことでライフタイムバリューの向上を目指すものでもあります。これには、顧客一人一人のライフイベントに合わせた「一人別提案」の実現、すなわちカスタマイズが必要であることから、データ基盤の強化やグループ各社のアプリケーションの統合などを着実に進めていくことが必要不可欠となります。

 ウェルスナビへの投資もその一環です。ウェルスナビは、長期・積立・分散の資産運用を全自動化したサービスであるロボアドバイザー(ロボアド)「WealthNavi(ウェルスナビ)」を提供する会社で、2024年1月時点でユーザー数38万人、預かり資産1兆円を超えるロボアド最大手のポジションを築いています。

 ロボアドのサービス提供開始は2016年ですが、2021年2月には、NISA 口座において自動でお任せの資産運用を行う「おまかせNISA」の提供を開始し、現在、新 NISA にも全面対応しています。

 新NISAを中心とした資産運用業界の競争が高まるにつれて、規模の拡大の重要性がさらに増していくことから、MUFGが、ウェルスナビをグループ傘下に収めることにより、自社の顧客基盤およびラインナップと、ウェルスナビの迅速な商品企画力および開発力を掛け合わせることで、ロボアドサービスやおまかせNISAの普及を促進させていくことは極めて重要な意味を持ちます。