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 不確実性が増し、トップダウン型の組織が時代にそぐわなくなった今、何が組織の命運を握るのか。本連載では、元海上自衛隊海将である著者が、組織の8割を占めるフォロワー(部下)に着目し、上司の「参謀」に育て上げるために必要な考え方、能力について解説した『参謀の教科書』(伊藤俊幸著/双葉社)から、一部を抜粋・再編集。リーダーシップ一辺倒の組織を、自立型の臨機応変な組織に改革するカギを探る。

 第3回目は、上司の行動や意思決定を積極的に補佐できる「参謀」を育てるための3つの指示の方法について解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 元海上自衛隊海将が伝授、「最強の部下」を作り、組織を激変させる方法
第2回 防衛大学校初代学長が、学生たちに繰り返し訴えた「理性ある服従」とは何か?
■第3回 自衛隊で明確に使い分けられている「号令」「命令」「訓令」の違い(本稿)
第4回 ポテンシャルある若者を、2割の幹部に鍛え上げる自衛隊の仕組みとは?
第5回 カーネギーメロン大学教授が提唱、組織の力を引き出すフォロワーシップ理論

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あなたは「訓令」で動けるか?

「理性ある服従のできる部下」を別の言葉で言い変えたものが、本書のテーマである「参謀」です。参謀のイメージを具体化するため、ここで質問をさせてください。「号令」「命令」「訓令」。みなさんはこの違いがわかるでしょうか?自衛隊では、部下に指示する方法として、この3つを明確に使い分けています。

 まず1つ目の「号令」とは、小学校などで行なわれている「行動指示」のことです。「起立! 気を付け! 礼! 着席!」「全隊、止まれ!」など、行なうべき行動だけをシンプルに伝えるものです。たとえば、「明後日の朝8時の名古屋行きの新幹線の切符を買ってきて」という指示は、「号令」といえます。ただし切符がなかった場合、部下は「ありませんでした」といって戻ってくる、子どもの使いのようになってしまいます。

 2つ目の「命令」は、「意図」と「行動」の両方を伝える方法です。たとえば、「明後日の13時から名古屋の○○社に商談にいくので、朝8時の名古屋行きの新幹線の切符を買ってきて」 という指示になります。指示された部下は、新幹線の切符を買う上司の意図がわかっていますから、8時の切符がなくても、13時に間に合う切符を買ってくることになります。「命令」は「号令」よりも上司の「意図」つまり「行動の目的」があわせて伝えられますから、部下に「自分で考える余地」が生まれ、上司にとっても満足のいく結果が得られることになります。

 3つ目の「訓令」とは、「意図」だけ伝えて「やり方は任せる」という指示のことを言います。先の例であれば、「明後日13時から名古屋の〇〇社に商談にいくので、出張の手配を頼むよ」というのが訓令です。ここで優秀な部下なら、次のような対応ができるでしょう。「そういえば課長、名古屋の△△社の社長と長らくお会いしていないですよね。せっかくですから前日夜に名古屋で会食されたらどうですか? そのまま一泊して翌朝〇〇社にいけば楽じゃないですか。必要ならお店と宿の手配もしておきますよ」