デジタル化があぶり出す企業の姿

 前述のように、法人はもともと概念上の産物ですので、デジタル化の下で起こっていることは、会社が本来想定されていた姿に近づきつつあるともいえます。

 冒頭の株主総会の変化はあくまで一例であり、デジタル化は「会社」のスタイルそのものを変えていきます。デジタル技術革新の下、企業は、生産に必要な人員や技術の確保など、これまでは内部的に「組織」で解決してきたことを、アウトソーシングによる外部リソースの活用をはじめ、「市場」で解決できるようになっています。これにより会社は「選択と集中」による資源の再配分や得意分野への注力など、思い切った戦略を取ることも可能になっています。

 これまで会社のイメージを象徴していた「本社建物」や「会議室」、「金庫」などに代わり、これからの会社は、その理念やコンセプトを軸として、さまざまなリソースを束ねる「ネットワーク」や「結節点」としての性格を強めていくことになります。これに伴い、会社の「内部」と「外部」の区別も希薄化していくでしょう。

 技術革新の流れを止めることは難しい以上、会社の変化も止めることは難しいでしょう。この流れの中で必要なことは、これからの企業を無理やり「場所」や「ペーパーワーク」「押印」などの従来からの企業像にはめ込むことではなく、新技術を活かせる新しい企業像を創っていくことです。

 すでにデジタル技術は、通勤地獄や引っ越しに伴う退職、ペーパーワークや押印文化、自前主義の慣行などを見直す機会を提供しています。一方で、デジタルでかなりのことが行えるようになったからこそ、対面という貴重な機会を有効に使う必要があります。そうした貴重な時間をペーパーワークや押印に費やすのは、ますますもったいないのです。今後とも、取引実務や慣行、事務の進め方、制度などを包括的に見直し、デジタル化に適したエコシステムを構築していくことが求められます。