連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第1回。「マイナンバーカードが給付金の受領に使えない」──コロナが明らかにした日本のデジタル化の課題とは? 金融などのイノベーションに深く関わってきた山岡浩巳氏(フューチャー取締役、フューチャー経済・金融研究所長)が斬る。
新型コロナウイルスの感染拡大の下で、広範な社会活動や経済活動が変化を余儀なくされる中、日本ではデジタル化の遅れという問題が一段と明らかになっています。そこで、自らの体験も踏まえ、デジタル化を巡る課題について、「マイナンバーカード」などの身近なトピックから考えていきたいと思います。
経済活動は人と人とのつながりから生まれるものですので、疫病対策と経済対策は本質的なトレードオフを抱えています。人々の接触を完全に断てば、感染は抑えられますが経済活動も成り立たなくなります。一方で、現在の状況のもとで人々の接触を放置すれば、目先の経済は維持できても感染リスクは膨らみます。
不幸中の幸いと言うべきか、今日の世界には、ペストやスペイン風邪の時代には想像もつかなかったデジタル技術があります。このような新しいテクノロジーを活用し、感染症のリスクを制御しながら、同時に社会活動や文化、そして経済を維持していくことが求められています。
もっとも、デジタル化は口で唱えるほど簡単ではありません。とりわけ日本では、紙やハンコ事務の解消すら十分には進んでおらず、ハンコを押すために出勤を余儀なくされる人々もなおいらっしゃいます。特に今回のコロナ禍の中では、せっかくマイナンバーカードが導入されていたのに、これが給付金の配布に役立たなかったことが大きな批判を呼びました。私も何人かの方から、「こんな状況なら日本も中央銀行デジタル通貨を出すべきですよ。そうすれば給付金くらいさっさと配れるんじゃないですか」と言われました。