一方で、働き方改革の進展に関わらず、現場には今まで通りかそれ以上の結果が求められます。「残業を減らした分だけ業績を落としていい」などということは許されないからです。となると、現場にとっては、従来の仕事のやり方を変えたり仕事量を減らしたりということはリスク以外の何物でもありません。

 結果、今まで通りの仕事にプラスして、例えば「業務効率化に取り組んでいることを示す資料作り」のような、無駄な忖度仕事が増えていく、という循環に陥ってしまうのです。

 残業を減らすという観点のみから言えば、全ての仕事をある決まった時刻で強制的にストップさせれば、物理的に仕事ができなくなるので、一定の効果は期待できるしょう。しかし残念ながら、時間で区切れない職種や仕事は存在します。結局「お客様の対応で」という“葵の御紋”がある限り、誰も現場の今までの仕事スタイルにノーとは言えないのです。

 こうして、今までの仕事のやり方は実質的に何も変わらず、新たな忖度仕事だけが積み重なっていくという最悪の事態になってしまうのです。

「止める会議」で「いっせいのせ!」でムダ仕事を止める

 では、働き方改革は「トップがシャカリキになってもダメ」で、「現場任せにしてもダメ」ならどうすればいいのでしょうか? 実は働き方改革で重要なトップの判断は、現場の仕事を「減らす・止める」ことにあります。 

 現場の仕事を「減らす・止める」の意志決定ができるのは、経営トップや役員しかいません。

 では実際に、トップや役員に現場の仕事を減らす決断をしてもらうには、どうすればいいのでしょか。

 仕事を減らす・止めるには2段階あります。

 まず全社レベルで「減らす・止める」には経営トップや役員が決める必要がありますが、取締役会には通常、現場の仕事を「止める」ことを決める場面がありません。そこで、第一段階は現場レベルからでいいので、「止める会議」を設定してしまいましょう。

 総務や人事でなくてもかいません。部署ごとに、社内で今やっているもので賞味期限切れになったものがないかを調べ上げ、「止める」「見直す」「残す」を判断する会議を年1回は設定するのです。

 初めから役員も巻き込めれば理想ですが、いきなり役員に根回しすることができなければ、声を掛けられる範囲でもいいでしょう。徐々にボトムアップのレベルを上げていけばいいのです。

「止める会議」の参加者は、形骸化したと思われることを箇条書きにして、賞味期限になった理由を書いて提出します。そうなれば会議の責任者は意外とサクサクと判断してくれます。現実的にムダな仕事を減らすだけでなく、目の前で次々とハイテンポでムダな仕事が消えていくので現場は達成感を感じ、やる気を出してくれる効果があります。どんどん上申してくれるでしょう。

 この会議のレベルを徐々に上げていき、第二段階の役員まで巻き込めるようになったらあなたの会社の「働き方改革」は成功したも同然です。

部署をまたがるムダ仕事を止めれるのは「止める会議」だけ

 少し厄介なのは、取引先、仕入先、関係先などにまたがる仕事です。これらは会議を含めるとかなりのボリュームになります。ゆえに、部署毎の最適な効率化をしても、部署をまたぐと全体最適にならないことも起きがちです。

 例えばクレジットカードの新規顧客獲得部門は、新規申し込み数Upに向けて最適化した組織運営を行っています。そしてカード入会審査部門は、不良債権が増えないよう審査を厳しくしています。その結果「申し込んで欲しいと頼まれたのに、カード審査で断られた」というクレームが乱発する事態に陥ってしまいがちです。