AIを駆使した提案も、お客さまに寄り添えなければ意味がない。

 IoT時代、お客さまと企業がデータで繋がり、企業のサービス提供のあり方が大きく変わる中で、お客さまの気持ちの変化に寄り添う「エクスペリエンスデザイン(体験設計)」の考え方や手法が注目を集めるようになって来ている。

 なぜなら、エクスペリエンスデザインの考え方や手法は、お客さまの気持ちへの共感と理解を通じて、企業のマーケティングにおける機会点の発見やKPI設定の手がかりとなるからだ。

 現在、多くの企業が「マーケティングオートメーション」の導入を開始しており、AIを搭載した専用ツールも少なからず紹介されている。

 企業がお客さまの過去の購買履歴やウェブサイトの閲覧履歴などをデータベースに蓄積し、AIを駆使してアナリティクス(解析)を行うことで、お客さまのニーズにマッチしそうな商品やサービスのリコメンド、広告の配信を行うなどがそれにあたる。

 しかし、一見効率的に見えるその運用が、「本当に」お客さまのロイヤルティ醸成に繋がっているかどうかは評価が別れるところだろう。

唐突に画面に表示されたアマゾンの「バーチャルダッシュ」

 例えば、アマゾンは2017年8月、プライム会員向けにデジタル・ダッシュボタン「バーチャルダッシュ」を導入した。

 ある日突然、著者のアマゾンのトップ画面右側に、これまで利用したことのあるクラフトビールやワインのショップ名が書かれた、色とりどりのダッシュボタンが並んだのである。

 ビジュアル的には先進感あふれるアイデアだが、著者は正直なところ、これは余計なお世話だと感じた。

 そもそも著者はネットショッピングで、手頃な価格で美味しい、掘り出し物のワインを探し出す喜び(いわゆるセレンディピティ)に価値を感じるタイプの人間である。