私たちは、進化の「進」という文字に惑わされ、一方向に進むことだと考えがちですが、進化の本質はむしろ「多様に展開していく」ことにこそにあるのです。

現場を萎縮させる経営者の振る舞い

 さて、ここでビジネスのマネジメントについて考えてみましょう。

 商品・サービスが次々と生まれ、淘汰されながらも、市場全体として多様化していく。この過程は、進化論で解き明かされてきた生物の多様化のようです。市場というものには、生命の進化と類似した法則性がありそうです。

 人間社会の経済活動も、俯瞰してみれば生物界の動きの1つなので、自ずと同じ現象が起きるとも言えます。

 進化論が発見してきた自然界における「理(ことわり)」から、私たちのフィールドであるビジネスを見たとき、どのようなマネジメントの「理(ことわり)」が見えてくるでしょうか。

 私が経営コンサルティングの仕事をする中で、常々引っかかっている多くの経営者の振る舞いがあります。それは、「イノベーションを起こせ! でも、失敗はするな!」という発言と態度です。

 進化論の観点から見ると、イノベーションとは、数々の分岐の結果、市場環境に適応して生き残ったものにすぎません。つまり、1つのイノベーションの背景には、生き残らなかった無数の種(事業・商品)が存在するのが当然なのです。

 生き残らなかったもの(失敗したもの)も露骨に劣っていたわけではなく、当時の環境に合わなかった、良い出会いの運がなかった、というだけであることも多いはずです。