日本が「先進国」と呼ばれて久しい。しかし最近ではさまざまな面で“遅れ”が生じているといわれる。特に指摘されるのが、AIの技術研究や普及、自動運転技術だ。日本が置かれている状況について、各分野の有識者に話を聞いた。

“研究”への無理解がAI技術の遅れを招く

テクノロジー面の遅れの中でも、筆頭に挙げられるのが「AI(人工知能)」の技術力と普及の遅れだ。人工知能研究の第一人者、東京大学特任教授の中島秀之氏は、技術開発の遅れている原因のひとつに、日本企業が保有する“データ量”の問題を挙げている。

「現在のAIは、ディープラーニングと呼ばれる機械学習技術の進化によって、画像や音声の認識率が格段に上がっています。そのとき、AIに学習させるためには大量のデータが必要不可欠なのですが、日本の企業は膨大なデータを収集できるビジネスモデルがなく、学習させるデータも持っていません」

米国ではGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれる4大IT企業が先頭に立ち、各社のサービスを利用している各ユーザーがスマホやパソコンなどから入力したテキストデータや音声、映像といった自社が持つデジタルデータをAI開発に役立てている。しかし、日本にはそうしたデータを収集するシステムやビジネスモデルがないため、ディープラーニングを行なうことができない。これが“遅れ”の端的な原因と言えそうだ。

しかし、AI開発が遅れる理由はそれだけにとどまらない。中島氏によれば、政府が用意する「研究予算の少なさ」が関係しているという。

「私は、AIを『人工的につくられた知能を持つ実態。あるいはそれをつくろうとすることで、知能そのものを研究する分野』として定義しています。そのため、研究に重きを置く必要があると考えているのですが、日本のAIに関する研究予算は欧米に比べて2桁ほど少ないのです」

AIを含む情報技術開発の研究予算の少なさは、そのまま研究開発の遅れを招いているという。

「研究予算の少なさは、行政側、とくに財務省は、テーマの重複を嫌い、切り分けようとします。また、失敗を嫌って短期的成果を求めます。これは“研究”という行為の本質が分かっている人がいないことの表れです。失敗をせずに必ず成功をさせようと思っていたら、大きな研究はできません」

このように指摘する中島氏。また、政府のバックアップ不足はもとより、AIという存在が一般的に普及していない理由には日本人の国民性も深く関わっている、と続ける。

「例えば、現在のようなAIブームが来ていたとしても、関連する技術研究はすぐに反応することができません。しかし、日本人が持つ“熱しやすく冷めやすい”という国民性によって、研究の成果を待つことなく世間の興味が薄れ、予算や人員も削減されてしまいます。これでは、次のブームに対応できません。ブームが来てから研究をはじめても遅いのです。本来、研究はブームの先をいく必要があります」


日本企業、行政、国民性……それぞれが日本のAIの発展を阻んでいるようだ。まずは、地道な研究なくしては技術の進歩が望めないことを、私たちは理解する必要がありそうだ。