医療画像の読み解きに人間は不要になるかもしれない。

 AIは人間の仕事を奪わない。逆に、新たな職種を生み出したり、既存の仕事の内容を、進化させたりするだろう。

 AIの導入が進めば進むほど、個々のお客さまの気持ちの変化に寄り添い、お客さまの体験が豊かになる方向で企業(や病院などの公共サービス機関)が提供する商品やサービスの内容を最適化(デザイン)する目配りや気配りが、企業間競争の最強の差別化ドライバーとして注目されるはずである。

 AIの導入により、「医療の現場」で起きるドラスティックな変化を例に取って、来るべき未来予想図を検証したい。

『白い巨塔』で描かれるアナログな医療の現場

「さすがに君だ、たった2枚のフィルムで、こんな早期の癌を発見できるとは、君の読影力の高さには頭が下がるよ」

 素直に感服すると、財前の顔に得意げな笑いがうかんだ。

「うん、まあ、これが僕の誇るに足るところだ、噴門癌の微妙な陰影の読影は、いうなれば科学ではなく、一種の芸術なんだよ、どこがどうだとか、どういう陰影はどう読影するかなどという定義は、あってないようなもので、何回も自分の目で見ているうちに会得し、解って来るものだよ、但し、それにはもちろん、非常に優れた勘と鋭い洞察力が必要だがね」

(『白い巨塔』第2巻 新潮社 山崎豊子1965年)

『白い巨塔』で描かれる財前教授と里見助教授のこのやり取りは、最先端の大学病院で勤務する医師にとってさえ、レントゲン写真の読影が科学ではなく芸術の領域のスキルであることを如実に語っている。