長時間労働の是正を、と主張すると、意外なほどに働く人自身からの反論が沸き起こる。いわく「今も少ない人数でギリギリの納期に向けて仕事している。労働時間を減らせば即、業績悪化に陥りかねない」「労働基準に反するほどの長時間労働はともかく、好きで仕事をしているのになぜ悪い」などなど。

 あまたの反論のうちで、筆者がもっとも深刻に組織上のリスクにつながると思うのは、「育児や介護など、“事情のある人”の労働時間の配慮はしている。なぜ、“長い時間働ける人”や“残業をしてでも仕事をやり切りたい人”までもが早く帰らなくてはいけないのか」というタイプの意見だ。

 確かに昨今では、ワーキングマザーや介護をする必要のある人などに対しては、時短で働くことや、残業しなくてすむ働き方を選択できるなど、「事情を抱えた従業員のワークライフバランスに配慮」した各種施策は、大企業を中心に整備され、定着しつつある。そうした従業員だけでなく、「働ける人」や「働きたい人」までも巻き込んで、「長時間労働体質からの脱却」に取り組まねばならない理由があるのだろうか。

 筆者の答えは「イエス」である。すべての企業ですべての人が長時間労働体質からの脱却に取り組むべき最大の理由は、組織におけるインクルージョンを実現するためである、と考えるからだ。

 インクルージョンの直訳は「包摂」「包含」などとされるが、いまひとつ分かりづらいかもしれない。筆者は、インクルージョンとは「自分の存在は100%許されていると、すべての人が信じられること」と説明している。

 昨今、欧米企業で多様性に関する話題が出る時には、単に「ダイバーシティ」というのではなく「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」というように、2つの単語をセットにして使われることが多い。

 これについて、ある米企業の人事担当役員は次のように説明してくれた。

「『ダイバーシティ』とは単に『多様である』という状態に過ぎない。多様な人が集まった集団がそれぞれの人を受け入れなかったら、多様であることが組織にとっての力にはなり得ない。多様な人々が大きな目的に向けて力を合わせるために必要なのが『インクルージョン=お互いに尊重し、認め合うこと』である」