記事のタイトルが適切だったのかはともかくとして、マスメディアの報道というのは世間一般を映す鏡でもある。雇用が大幅に減少するというトーンになってしまったのは、ロボットやAIの普及が仕事を奪うとのイメージが広く行き渡っていることの裏返しといってもよいだろう。

 2015年12月には野村総合研究所が、英オックスフォード大学の推計方法に倣い、日本においてロボットとAIがもたらす影響について試算している。同社の試算では、労働人口の約半数がロボットやAIに置き換わる可能性があると結論付けているのだが、この試算結果は世間一般が持つイメージと一致している。

 果たしてロボットやAIによって仕事は増えるのだろうか、それとも減るのだろうか。

違いはミクロかマクロか、内容は実は同一

 2つの試算結果は正反対に見えるが、実はそうではない。経産省の試算においても、オックスフォード大学のモデルが活用されており、仕事の一定割合がロボットで置き換わることが大前提となっている。両者において、このような違いが生じている理由はどこにあるのだろうか。

 最大の違いは、オックスフォード大学のモデルは、個別の業務に焦点を当てたミクロ的なものであり、経済産業省の試算は潜在成長率をベースにしたマクロ的なものであるという点だ。

 経済産業省による試算のベースとなっているのはマクロ経済における成長率予測である。マクロ経済では、その国の長期的な経済成長率は、潜在GDP(国内総生産)で決定される供給力の制約を受けると理解されている。つまり、どんなに需要があったとしても、その国の経済が持っている供給力を超えて経済が成長することはできないという考え方である(供給が需要に追い付かない場合はインフレになる)。

 潜在GPDを決定する要因は、資本投入、労働投入、全要素生産性の3つである。これは、ごく簡単に言ってしまうと、「お金と労働者の数とイノベーションで経済は決まる」ということである。

 日本の場合、過去の経済活動から得られた分厚い資本蓄積があり、お金の面では問題ないものの、人口減少によって労働力人口の低下が確実視されている。今と同じ経済成長率あるいは、今よりも高い経済成長率を望むのであれば、労働力人口の低下を補って余りある全要素生産性の上昇が必要となる。