デジタル経営の実現へ
向けた第一歩は
「レガシーへの決別」から

今日はデジタルとデータの活用
如何で企業の成長が左右される
時代

 かつてITは、あくまでも業務を支援するためのもの、あるいは業務を効率化してコストを削減するものだと長らく考えられてきましたが、IT技術が高度に進化し、企業が営むあらゆる活動の中に深く入り込んでいる今日では、「ITをいかにうまく活用するか」によってビジネスの成否が大きく左右されるようになってきました。

 特に近年では、「データ活用」が企業活動に与えるインパクトは年々高まっています。今や企業のあらゆる業務は、ITシステムによって下支えされています。財務会計システムは無論のこと、人事部門の活動は人事システムによって、製品の生産は生産管理システムによって、営業活動は顧客管理システムによって支えられており、これらのシステムには日々の企業活動を子細に記録したデータが蓄えられています。

 これらのデータを1カ所に集めて集計・分析を施すことで、自社のビジネスの強みや弱みを見いだしたり、市場トレンドを読み解いたり、あるいは思わぬ知見を見いだすことで新たな製品やビジネスモデルのアイデアが浮かぶ可能性があります。Webサービス企業やゲーム会社などではかなり前から、自社が運営するWebサイトやオンラインゲーム上でのユーザーの動向を逐一データとして蓄積し、それに対してビッグデータ分析を施すことでいち早くユーザーの嗜好をつかむ取り組みを行っています。

 一方、こうした取り組みとはあまり縁がないと思われてきた製造業なども現在、「IoT」「スマートファクトリー」といったキーワードの下、データを活用した「デジタル経営」へとビジネスモデルを大きくシフトしつつあります。例えば工場の生産設備にIoTセンサーを取り付け、設備の稼働状況を示すデータを常時収集して分析することで、稼働状況をリアルタイムに監視したり、機器故障の予兆を察知するような取り組みが既に始まっています。

 また、製品自体にIoTセンサーを取り付け、市場に出荷した後にネットワーク経由でデータを収集することで、ユーザーがその製品をどのように利用しているかを把握し、より良い製品・サービス開発やサポートサービスに役立てる取り組みも進められています。

IT予算の90%を
“レガシーシステム維持”に
かけますか?

 その他にもさまざまな業種・業態の企業において、デジタル技術とデータを活用した新たなビジネスの取り組みが始まっています。こうした取り組み全般のことを、「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」と呼ぶことがあります。デジタル技術によって企業の経営やビジネスモデルを根本から転換(トランスフォーメーション)し、先進IT技術を武器に市場を席捲しつつある新興企業に負けない、来るデジタル時代にふさわしい企業へと脱皮を図る活動全般のことを指します。

 DXの実現のために必要な取り組みは極めて多岐に渡っており、その実現までの道のりには数多くの課題や困難が立ちはだかっていますが、経済産業省が2018年9月に公表した「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」には、その全体像が極めて簡潔にまとめられています。この資料には、日本企業がDXを実現するために乗り越えるべき課題と、その解決のための具体的な提言がまとめられていますが、中でも特に深刻な問題として挙げられているのが「レガシー環境の刷新」です。

 DXを実現するためには、AIやビッグデータ、IoTといった先進技術分野に対して積極的に人とお金を投資し、データを活用したデジタル経営を実現するための新たな仕組みを作り上げる必要があります。しかし多くの日本企業では、IT予算の内の約8割を、既存システムの運用やメンテナンスに充てていると言われています。そのため、DX実現のために十分な人とお金を投入できず、「このままではDXを実現できないまま、国際競争の中で埋もれてしまうのではないか」とDXレポートでは警鐘を鳴らしています。

 企業の中で長年使われてきたレガシー(遺産)なシステムは、一見すると安定して動き続けているために、何の問題もないように見えます。しかし、IT技術の進化が早い今日では、時代遅れの技術を使って作り上げられた古いシステムを維持するためには、膨大なコストが掛かります。特にシステムを改修したり更改する際には、古い技術を扱える技術者は年々不足し、また長年の運用の間にシステムの中身を知る人も年々少なくなるため、多くの時間とコストを要します。

 こうした課題は、レガシーシステムを長い間使い続ければ続けるほど顕著になります。このまま行くと、近い将来多くの日本企業はIT予算の9割をレガシーシステムの維持のために費やすはめとなり、「とてもDXどころではなくなるだろう」とDXレポートは警鐘を鳴らしています。

「レガシーシステムの刷新」と
「クラウド活用」がDX実現への第一歩

 DXレポートはこうした状況分析の下、日本企業がDXを実現して今後も成長を続けるためには、レガシーシステムを新たな技術を使って刷新し、これまでレガシーシステムの運用・保守に費やしてきた人や時間をDXのために投入する必要があると結論付けています。

 古い技術と決別し、新たな技術を使ってシステムを刷新することで、効率の良い開発や改修が行えるようになります。これにより、単に運用・保守のコストが下がるだけでなく、短期間の内にシステムを構築・改修できるようになり、市場環境により柔軟かつ迅速に対応できるITを実現できるでしょう。

 さらにシステム刷新による効果を高めるためには、「クラウドの利用」が重要な鍵を握ります。レガシーシステムに費やしていた人手やコストの多くは、サーバやストレージといったハードウェア機器、またOSやミドルウェアなどのソフトウェア類を含むインフラの運用・保守に充てられていました。しかしシステムをクラウド上に構築すれば、少なくともハードウェアの運用・保守は基本的に不要になります。またクラウドサービスの種類によっては、OSやミドルウェアの面倒も見る必要がなくなります。これによって、より多くのリソースをインフラの運用・保守から解放し、DXに振り向けられるようになるのです。

 さらに、クラウドで基幹システムを運用することで、システム上で管理されているデータをより効果的に活用できるようになります。高度なデータ分析を行うITの仕組みを構築するには、一般的には極めて多くの人手・コスト・時間を必要とします。しかしクラウドをうまく使えば、比較的短期間・低コストの内にデータ分析基盤を構築できますし、クラウドベンダーが提供するデータ活用サービスをそのまま使えば、さらにコストと時間を節約してデータ活用の仕組みを構築できます。

 こうして、基幹システムのデータをさまざまな角度から高速に分析できるようになれば、その結果からさまざまな知見を見いだし、斬新な製品・サービスの企画・開発に生かすことができるはずです。ただし、レガシーシステムを刷新し、新たなシステム基盤へ移行するには、それなりの額の投資が必要です。そのため経営の観点から見ると、投資対効果に疑問を差し挟みたくなることもあるかもしれません。中には、「レガシーも最新のプラットフォームもクラウドも、同じソフトウェアなのだから簡単につながるのでは?」と考えている方もいまだに少なくありません。

 しかし、業務やアプリケーションごとに異なる基盤技術が使われている、いわゆる「部分最適」のITは、すべてのシステムを同じ基盤上に統合した「全体最適」のITと比べ、やはり長い目で見るとかなりコスト高になります。また、システム同士の連携や、ビジネス環境の変化に柔軟に追随するためのアジリティ(俊敏性)という面でも、はるかに不利になります。

 こうした点を鑑みても、やはりまずは自社のDXの足を引っ張っているであろうレガシーシステムの処遇に、ぜひ積極的に関心を向けたいところです。

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