成長に向けて縮小する
国内経済から「海外進出」を
決断する中堅・中小企業
日本では今後、少子高齢化が一層進み、労働人口はますます減少していくことが予想されています。既に多くの中堅・中小企業が人手不足に悩まされる中、今後はさらに新たな人材の獲得が困難になると言われています。
また人口の減少は、製品やサービスの供給側のみならず、消費する側の規模も同時に縮小することを意味しています。労働人口と消費人口がともに減っていけば、自ずと国全体の市場規模も小さくなっていきます。それに伴い、これまで国内市場を主戦場としてきた企業の多くは、事業規模の縮小を迫られることでしょう。
もちろん、市場が縮小する中でも、さまざまな施策を講じることで競合他社との競争に打ち勝ち、売上やシェアを伸ばしていくことは十分に可能です。しかし中長期的に見た場合には、よほど市場全体の成長が見込まれる分野でない限り、これまでと同じことをやっていては大きな成長はなかなか見込めないのも事実です。
そこで、縮小傾向にある国内市場だけでなく、海外の成長市場に目を向ける企業が増えてきています。大企業、特にメーカーは早くから海外市場に進出し、国内市場に留まっているだけでは達成できない高い成長や売上を達成してきました。
その一方で、ほとんどの中堅・中小企業は、長らく国内市場を中心に事業を展開してきました。かつては国内市場も成長を続けており、日本国内に留まっていても十分に事業を伸ばしていくことができたのです。また海外進出にはそれなりに大きな投資が必要で、失敗のリスクも決して小さくありません。そのため、ほとんどの中堅・中小企業にとって「国内市場に留まる」という選択は、極めて合理的な判断でした。
しかし国内市場の成長が鈍化し、今後はマイナス成長へと転じる恐れも指摘される中、中堅・中小企業もこのまま国内市場に留まっているだけでは、「成長はおろか、生き残りさえ厳しくなるのではないか?」という危機感をひしひしと感じるようになりました。事実、こうした危機感から海外市場に果敢に進出する中堅・中小企業が急増しています。特に現在目覚ましい発展を遂げている中国や、今後大きな成長が見込まれるアジア新興国との取引を通じて、アジアでの新たな市場開拓に乗り出す企業が増えています。
ジェトロ(日本貿易振興機構)が行った調査「2018年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」によると、「海外進出の拡大を図る」と回答した企業の数は、直近8年間の間で57~68%と常に高い水準で推移しています。企業規模別に見ると、大企業はやはり61~81%とかなり高い数値を示していますが、一方の中小企業も55~65%と常に高い水準で推移していることが分かります。また国・地域別に見ると、上位3カ国を中国、ベトナム、タイが占めており、やはりアジア地域への進出意欲が高いことがうかがえます。
グローバルビジネスを進める上で
ネックとなる業務システムの問題
ただし当然のことながら、海外市場で取引を行うには、国内とは異なるさまざまなノウハウが必要になります。真っ先に思い付くのは、「通貨」の違いでしょうか。これまで国内で円建てでしか取引を行ってこなかった企業にとって、海外で異なる通貨で取引を行うのは、かなりハードルが高いものです。特に、現在利用している業務システムを、円以外の通貨も扱えるようにするのは、場合によってはかなりの困難を伴います。
多くの中堅・中小企業が現在利用している財務会計システムや販売管理システム、購買管理システムといった業務システムは、それがパッケージ製品にせよ自社で開発したシステムにせよ、国内利用を前提として開発されたものがほとんどで、円以外の通貨の利用はもともと想定されていません。また海外では通貨だけでなく、税制や各種法規制も国や地域ごとに異なります。そのため業務システムにも、国・地域ごとの法制や商習慣を考慮した機能が必要になります。しかし日本国内での利用のみを前提としたシステムに、後から海外対応の機能を追加するのは極めて難易度が高く、多大なコストと時間を要するのが一般的です。
そこで、現地で広く使われているパッケージ製品を採用したり、現地で実績のあるSI企業にシステム開発を依頼する方法がよくとられます。これにより、現地の通貨や法制度、商習慣には問題なく対応できるようになりますが、その一方で今度は現地のシステムの中身が本社から見えなくなってしまい、ガバナンスが効かなくなってしまう恐れが生じます。
そういった問題の解決策としては、初めからグローバル環境での利用を前提に設計・開発されている業務パッケージ製品を導入するという方法があります。既にグローバル企業において実績のある製品であれば、世界のさまざまな国や地域で導入・運用されている実績があるため、特にシステムに対して手を加えることなく、各国の通貨や法制度、商習慣に対応できるでしょう。
こうした製品の多くはクラウドにも対応しているため、クラウド上にあるシステムを各国の拠点からインターネットを通じて利用すれば、各拠点ごとにシステムを構築する時間やコストも省くことができ、基幹システムをグローバルで統一すれば各拠点の経営状態もガラス張りにできるため、ガバナンスもしっかり効かせられるようになります。
グローバルERPの導入で
海外進出に成功した事例
こうした方法を採用してグローバルビジネスの強化に成功した企業の1つに、エレクトロケミカル材料メーカーのナミックス株式会社(以下、ナミックス)があります。新潟県新潟市に本社を構え、年商約320億円、社員数約600名という中堅規模のメーカーでありながら、同社が開発・販売する導電・絶縁材料は国内はもとより、グローバル市場においても高い競争力を持っています。しかし同社では、将来的な国内市場の縮小をにらみ、今後もビジネスを成長させていくためにはグローバルビジネスをさらに強化していく必要があると考えていました。
その一方で、同社は業務システムを長らく、既存業務に合わせて一からスクラッチ開発していました。しかし今後グローバルビジネスを強化していくためには業務システムの機能拡張が必須であり、現行の手組みのシステムではどうしても拡張性に限界がありました。そこで思い切って、グローバルビジネスのための基幹業務パッケージ製品として世界中で豊富な実績を持つ「SAP ERP」にリプレースすることにしました。
SAP ERPというと、どうしても「大手企業向けの高価なERP製品」というイメージが付いて回るため、ナミックスでも当初は「うちのような規模の企業で、果たして費用対効果が得られるだろうか?」という不安もあったといいます。しかし実際には比較的安価なコストで導入でき、かつ既存の業務プロセスにも最小限のカスタマイズで柔軟に対応できたため、極めてスムーズに導入できました。また世界中で豊富な実績を持ち、海外でも広く知られるSAP ERPを採用していること自体が、海外の取引先からの信頼を勝ち得る上でいいアピールポイントになっているようです。
このように今日では数多くの中堅・中小企業が、グローバルビジネスでの実績が豊富なERP製品を導入することで、スムーズな海外進出を果たしています。海外進出を検討する際には、ぜひこうした「システムの視点」を忘れずに持つようにしたいものです。