ベルク(埼玉県鶴ヶ島市、原島一誠社長)というスーパーマーケットをご存じだろうか。スーパーマーケット業界では優良堅実企業として有名だが、その模範企業が今、大きく変貌している。今年7月末には高崎市に「クルベ」という企業名を逆さ読みした店舗名を持つディスカウントストアをオープンさせ、9月には従業員の身だしなみを大幅緩和した服装自由化を宣言、10月にはスタートアップベンチャーを支援するビジネスコンテスト開催を発表した。堅実な企業が多いスーパーマーケット業界で、「らしくない」動きをするベルクの意図を読み解く。

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 ベルクは埼玉県に本部を置くスーパーマーケットチェーンだ。埼玉県を中心に群馬県、栃木県、茨城県、千葉県、東京都、神奈川県に133店舗(2023年2月末時点)を展開する。2023年2月期(2022年度)の営業収益は3108億2600万円、営業利益は140億1800万円(いずれも連結ベース)。

 ベルクは1959年、埼玉県秩父市に設立した主婦の店秩父店という株式会社がスタートだ。1992年に企業イメージ向上のために現社名に変更したが、当時、8店舗・年商約200億円だった企業は、1994年に株式公開し現在では東証プライム市場に上場するまでなっている。

10年連続で既存店売上高が前年クリア

 セブン&アイ・ホールディングス、イオンやアマゾン・ジャパンなど含めた国内小売業の売上高ランキングでは52位のベルク。スーパーマーケット業界では16位で、同じ首都圏にスーパーマーケットを展開するヤオコー、サミット、ベイシアなどに次ぐ規模で、一見凡庸な企業に思える。
しかし、営業力を示す数値をみると、この見方は一変する。

 まず営業収益は32年連続の増収。これは安定した出店を重ね続けてきたことを意味する。

 そして、10年連続の既存店売上高前年超え。既存店売上とは新規オープン後13カ月以上が経過した店舗を対象にした店舗営業力安定の目安だ。これが前年を超えているということは、ベルクの各店舗が競合に強く、地域の顧客から高い支持を得ていることを示す。

 2022年度の既存店売上高前年比は101.8%で、その内訳は客数が100.3%、客単価が101.5%。コロナ下で買物客は来店回数を減らし、その分、1回当たりの買上点数を増やした(客単価増)が、その中でベルクは既存店の客数も増加させている。

 また、経営指標では2023年2月期の営業利益率が4.6%。スーパーマーケット業界では営業利益率2~3%で良好とされる。それはスーパーマーケットの主力商品である食品は価格競争の対象になりやすいことに加え、接客や商品化、品出し、精算などスーパーマーケットの店内業務は人に頼る部分が多く、低粗利、高経費の構造になりやすいからだ。

標準化の徹底で同業他社の1.29倍の生産性

 ベルクの高い営業利益率には2つの理由がある。

 1つ目の理由が生産性の高さ。ベルクの従業員1人当たりの年間売上高は3440万円(2022年度)。株式上場しているスーパーマーケット24社の平均数値は2664万円(2021年度決算数値より算出)で、ベルクはその1.29倍の数値だ。

 これはベルクの最大の特徴である「店舗の標準化」の効果が大きい。ベルクの店舗は売場面積約600坪で統一されている。新店はロードサイド沿いに出店することが多く、広い敷地を確保しやすいため、その中で標準化した店舗をつくりやすい。売場レイアウトも、生鮮食品、惣菜、デイリー、加工食品の配置と動線設計は入り口から右回り、左回りの差はあるが、基本はほぼ同じ。ベルクでは店長や売場担当者が他店舗に異動しても全く困らないという話があるくらいだ。

 店舗設計に加え、設備・什器・備品など省力化されたマテハン(マテリアルハンドリング)機器、作業手順などのルールもベルク全店で標準化が徹底されている。こうしたオペレーションの単純化も1人当たりの年間売上高を高めることにつながる。また、自社物流によって在庫保管、店舗への定時一括出荷を行うことも店舗の作業軽減につながり、生産性を高める要因となっている。

 2つ目の理由が利益率の高さ。ベルクの2022年度の売上総利益率は27.7%。2023年度は27.8%と0.1ポイントの増加を見込むが、その要因の一つがプライベートブランド(PB)「くらしにベルク kurabelc(クラベルク)」の展開だ。デイリー、加工食品中心に着実に商品開発を進めており、2022年度は598品目と前年度から198品目増加している。ナショナルブランド中心に食品の値上げラッシュが続いている中で、PBの価格訴求、固定客づくりの効果が高まっている。

“とんがり”でさらに企業を成長させていく

 ここまでの取り組みはチェーンストア理論に基づいたスーパーマーケットとして非常にオーソドックスなものなのだが、最近になって、そのベルクに“とんがり”が出てきた。

 例えば、販促。PBの一定金額の購入を応募条件としたキャンペーンでは当選賞品に人気の男性コーラスグループ純烈のトークショー&ミニライブ招待券や宝塚歌劇月組公演ペアチケットがラインアップされている。これらの企画はベルクの主要客層である30~50代の女性の集客につながり、PBのファンづくりのきっかけになる。

 このほかにもベルクでは現在、人気家電を賞品にしたキャンペーン企画を定期的に行っており、これらの企画を折り込みチラシを使って告知。その一方でキャンペーン参加はLINEなどSNSを活用することでリアルメディアとデジタルを巧みに使い分けしており、企画実施のたびにSNS上で話題になっている。これは「販促は紙」というスーパーマーケットのこれまでの常識を超えた飛び道具のような仕掛けだ。

 飛び道具という点では冒頭に挙げた「クルベ」もその一つだろう。買い物を旅行に見立てた壁面のビジュアルや売場の各コーナーに付けられたショーカードは食のテーマパークを思わせる空間となっている。ベルクの標準店とは一変したディスカウント店舗の世界をつくりあげたが、この店舗は既存店を改装したもので、一定の支持客層が見込めることに加え、建設コストを抑えることで、リスクを最小化しながら、新フォーマットの可能性を探っている。

 紙媒体とSNSを組み合わせた販促、標準店とは一変したディスカウント店舗はいつもベルクの店舗を利用している顧客の活性化を図ると同時に、新たな客層の開拓にもつながる。チェーンストア理論にのっとった堅実経営に加え、こうした新しい仕掛けでさらに企業を成長させていこうというのが、「らしくない」動きをするベルクの狙いと言ってよいだろう。

 そして、9月からの従業員の身だしなみ大幅緩和だ。

 頭髪や装飾物、服装などについて「お客さまに不快感や恐怖感を与えないことや作業性と安全性を考慮し、業務に支障を与えないこと」を前提条件として大幅に緩和した。これは店舗およびセンターでは、さまざまな外国人材が勤務していることが背景にある。ダイバーシティの推進や人材活用の観点からも、スーパーマーケットの常識にとらわれないこうした取り組みは前向きに評価できる。