「良いクルマ」を追求しなければ「楽しさ」は生まれない

本音の「東京モーターショー2013」レビュー(後篇)
2013.12.24(火) 両角 岳彦 follow フォロー help フォロー中
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富士重工業/スバルのブースには3カ所に一段高いスタンドが設けられ、それぞれに新型車の「レヴォーグ」、ごく近い将来に市販する可能性を示す「クロススポーツ・デザインコンセプト」、そしてもう少し遠くまで伸びた時間軸の中でスタイリングとエンジニアリングの進化をイメージさせるためのコンセプトカーである、この「VIZIV EVOLUTION CONCEPT」が載せられていた。後2輪をそれぞれに電動モーターで駆動し、左右の駆動力をコントロールしつつ走るハイブリッド動力システムが実装されている。(写真:富士重工業)
いまや海外資本が過半数を占めるようになった日本の商用車メーカーの展示の中で、社会の中で機能する移動空間という発想と、それを実現するための技術の両面で「明日」への提案が見られた数少ない事例であった日野「ポンチョ・ミニ」。純電気自動車の低床コミュニティバス、つまり生活に密着した地域内交通のためのクルマであり、左側にはその低床空間を実現するために駆動機構や電池の配置を工夫して運転席から後の床を低く平らにした走行骨格のモデルが展示されている。これは荷物運搬用のトラックにも展開できる。(撮影:筆者)
東京モーターショーを「ワールドプレミア(世界初公開)」に選んで公開されたフォルクスワーゲン「twin up!」。コンパクトカーのup!に2つの動力を実装、すなわちプラグインハイブリッド車としたもの。XL1で縦列2座キャビンの背後に置いていた排気量0.8リッターの直列2気筒ディーゼルエンジン(ターボ過給)と、それと同じ最大35kWの出力を持つモーターを組み合わせたパワーパッケージはフロントのエンジンルームに収められ、後席下に電力容量8.6kWh(XL1は5.5kWh)のリチウムイオン電池、その後に33リッターの容量を持つ燃料タンクを配している。これでヨーロッパ公的試験モードの燃費は「100キロメートル走行に軽油1.1リッター」すなわち「1リッターあたり90.9キロメートル」である。今回は参考出品だが、もちろんいつ市販してもおかしくない。(図版提供:Volkswagen)
フォルクスワーゲンが限定販売とはいえ市販車で現時点で最高の燃費性能、欧州での試験モードで「100キロメートル走行するのに軽油0.9リッター」、すなわち「1リッターカー」を実現した「XL1」も、日本初お目見え。今日の自動車技術の先端やモータースポーツ技術をフルに活用している。座席配置はタンデム(縦列)2座で、それをC(カーボン)FRP一体成型品の骨格(モノコック)に収め、走りの資質を左右するダンパーにしてもアルミ合金製(通常の量産車は鋼管)の外筒を用いたレースのものを元に専用開発した超軽量品を使うなど、究極を求める技術へのこだわりを満載した「超高性能車」であり、頒価も高性能スポーツカーなみである。日本での販売予定はとりあえずないというのが残念。(撮影:筆者)
BMWのブースに展示されていた、純電気自動車(電池に蓄えた電力を使ってモーターを駆動して走る)を市販化する「i」シリーズの小型4座実用車「i3」の車体骨格。キャビンを包み込む主骨格はCFRP成型のブロックを一体化した大きな箱であり、走行機能要素を組み付けてその入力を受け、同時に床下に電池のブロックを収める骨格はアルミ合金を主にした金属の台枠としている。EVの航続能力を伸ばすためには何よりも軽量化が求められること、少量生産で、しかも斬新なイメージを持つべき製品として、最新技術を「適材適所」で使って作る、というコンセプトが明確に表れた設計である。これも自動車メーカーによる「市販車」なのだが、そうした挑戦を試みる日本のメーカーはまだない。例えばレクサスLF-AはCFRP骨格を採用したが、その構成は鋼薄板溶接の大量生産車の設計以外を知らない設計と製造の技術者が、素材だけ別のものを使って作ってみた、というものにすぎない。(撮影:筆者)
駆動系要素技術を得意とするドイツのサプライヤー、シェフラーの展示ブースで見つけた小型乗用車用変速機のカットモデル。ホンダがフィット・ハイブリッドから導入したDCT(デュアルクラッチ・トランスミッション)そのものであり、外郭をカットしてその断面を黄色に塗装してある部分は全て、同社の製品である。すなわち乾式単板クラッチを2連にしたデュアルクラッチ機構、そのクラッチを作動(断続)させるアクチュエーター、変速セレクト(ギアを入れ替える)機構を動かして自動変速を行うアクチュエーターという変速機能を受け持つ部分である。内部が見えない写真右下の筐体内部には7速+後退のギアセットが収められている。(撮影:筆者)
ヤマハの展示ブースに置かれていたコミューター(短距離移動の道具)型ミニマムサイズカーの「MOTIV」。これはかつてブラバム、マクラーレンというトップチームで独創的かつ勝つ能力を持つF1マシンをデザイン(本来の意味である「設計」)し、3座の超高性能・超高品質スポーツカーの「マクラーレンF1」もほその頭脳から生み出した天才設計者、ゴードン・マーレー氏とのコラボレーションで作り上げたクルマである。後方に置かれている角断面鋼管を主に組み上げた骨格(写真で車両背後に見えている)は、簡素で作りやすく、しかし車両の土台としての剛性や衝突安全性を高次元にまとめあげたもの。エクステリアスタイリングはマーレー氏の専門ではなく、ヤマハ側が主導したものと思われるが、いささか類型的でこのクルマのコンセプトを表現しきれていないのが惜しい。「何らかの形で市場導入する方向を目指したい」というコンセプトモデルであって、一部のメカメディアが先走って「ヤマハが4輪事業に参入」と報じたような状況ではない。もちろんヤマハはエンジンを中心に自動車メーカーに技術や製品を供給する「4輪事業」はずっと続けている。この「MOTIV」の発表会見の後、我々に語ったマーレー氏の東京モーターショーについての印象は、笑いながら簡潔に2語、「Nothing Excitement!(ワクワクするものは何もなかったよ)」。こちらもまったく同感、という結論を交わして別れたのではあった。 (撮影:筆者)

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