清川さんの代表作である「美女採集」シリーズ。「戸田恵梨香×ハイイロオオカミ」

——それが表現できるのは、まずその魅力に誰よりも気づいているからだと思うのですが、魅力を見抜く力はどう培ってきたんですか?

清川:やっぱりリサーチは入念にするんですよ。今回の人形浄瑠璃であれば、歴史や文化を調べて、まず知ること。その上で、今淡路島全体がどういう状況かとか、今社会はどういう状況なんだろうというのを総合的に見て、この先あと数年したらこれが注目されるだろうな、じゃあここにぶつけようとか。

 対象の魅力も、その周りの状況も未来も把握した上で、どう表現すれば面白くなるか、というのを考えています。

——なるほど。先を見通す力が必要なんですね。

清川:元々、誰もやっていないことをやるのが好きなんです(笑)。やっぱり見たことのない世界を自分で作るから楽しいんであって、見たことがあるものを作るんだったら他の人でも出来てしまうと思うので。

故郷・淡路島で開催された個展「あめつちのうた」。初期作品から「美女採集」、絵本の原画、国生み神話をモチーフにしたアニメーションなどを展示し、県外からも多くの来客を集めた。

一足先に時代の流れに逆走する

——たしかに、時代に先行くものを作品にしていますよね。清川さんの「imma展」で初めてヴァーチャルモデルの存在を知りました。

清川:あの時はすごくヴァーチャルに興味があったんです。immaちゃんは実際はいない存在なのに、SNSを通じてみんなが勝手に感情移入していく様が面白くて。デジタルやAIの技術が加速していくと、世の中どんどん嘘と本当が混じり合って、もうリアルなものが実在しなくなっていくんじゃないかと考えていたので、immaちゃんをみてすぐに作品化したいと思いました。

2020年に発表された「imma」展。実際には存在しないヴァーチャルヒューマンimmaをモデルに起用し、話題になった。写真は「imma(monster)」。

——ヴァーチャルモデルって何!? と当時は衝撃でした。

清川:人形浄瑠璃もそうなんですよ。最初はみんな「聞いたことはあるけど見たことない」って言うんです。歌舞伎は見たことがあるけど、人形浄瑠璃は見たことがない人と言うも多くて。その魅力を伝える為に、自分が作る意味があると感じたんです。

 今はAI技術が発達して、デッサンもスケッチもできるし、アート作品も作れてしまう。もう手で作っているものはほとんどなくなるかもしれないと言われています。それに対して、人形浄瑠璃の手数の多さ。ひとつの人形を動かすのに3人掛り。すごく手間がかかる(笑)。

 でもこの手間の多さがいいと思うんですよ。コンピュータやAIじゃ絶対できない世界。それがこれからの時代に逆走していていいなと思ったんです。社会ってみんなが同じ方向を向いていくことで安心しますよね。でもいずれみんな立ち止まってふと考える瞬間があると思うんです。だから手業を生かしたものや、伝統のあるものが今後より注目されてくるだろうと思っています。

——そうですね。秋にも新しい演目が発表になるそうですが、それはどんな内容になっていますか?

清川:第二弾では、より人形の魅力に集中してもらいたいと考えました。淡路島にしかない「衣装山」という煌びやかな衣装を舞台いっぱいに披露する見せ物と、一瞬にして衣装が変わる「七化け」、好きな人のために鐘を鳴らすお話で有名な「八百屋お七」。3つの要素を“ある夜の出来事”としてひとつのストーリーに繋げたいいとこどりな演目に仕上げました。さらにパワーアップした内容になっているので、ぜひ観に来てください。

 

PROFILE
清川あさみ
プロデューサー、美術家、絵本作家。1979年淡路島出身。糸や写真など多様なビジュアル表現を展開するアーティストとして国内外の美術館で展覧会を多数開催。代表作に「美女採集」「Complex」シリーズ、絵本『銀河鉄道の夜』などがある。淡路島の地方創生事業にも携わる。https://www.asamikiyokawa.com/