北陸先端科学技術大学院大学 トランスフォーマティブ知識経営研究領域 教授の 内平 直志氏(撮影:川口 絋)

 AIやIoTのほか、プログラミングの専門知識がなくてもWebアプリケーションを作成できるローコード/ノーコードツールなど、さまざまなデジタル技術が普及し、中堅・中小企業にとってもDXを推進する環境が整いつつある。しかしながら、一方では人材不足・予算不足などを理由に、なかなかDXが進んでいない現実もある。

 その中で「中堅・中小企業には、大企業に比べてDXを推進する数多くの利点がある」と断言するのが、北陸先端科学技術大学院大学教授でデジタルイノベーションデザインを専門とする内平直志氏だ。同氏が調査してきた石川県の中堅・中小製造業の成功事例をもとに、中堅・中小企業がDXを成功させるポイントを聞いた。

リーダーの考えひとつで、中小企業は一気にDXを進めていける

――DXを推進する上で、中堅・中小企業が持っているメリットとは何でしょうか。

内平 直志/北陸先端科学技術大学院大学 トランスフォーマティブ知識経営研究領域 教授

1982年東京工業大学理学部情報科学科卒。1997年東京工業大学で博士(工学)、2010年北陸先端科学技術大学院大学で博士(知識科学)取得。(株)東芝 研究開発センター 技監等を経て、2013年から現職。日本MOT学会理事、研究・イノベーション学会理事などを兼任。専門はデジタルイノベーションデザイン。著書に「戦略的IoTマネジメント」(ミネルバ書房) 、「AIプロジェクトマネージャのための機械学習工学」(科学情報出版)など。

内平直志氏(以下敬称略) 中堅・中小企業の多くはオーナー企業なので、リーダーである経営者がひとたびDXの必要性を理解し、ビジョンを掲げれば、スピード感をもってDXを推進することができます。

 石川県内企業の事例を挙げると、建設・産業機械メーカーの「タガミ・イーエクス」では、ある経営幹部が意欲の高い中堅社員を引っ張り、2人でIoTやタブレットの導入、データ収集・解析など一連のDXを推進し、生産ラインの最適化に取り組んでいます。その意思決定とアクションのスピードは大手企業とは比べものになりません。

 また、ガソリンスタンド等の地下タンクの分野で国内トップシェアを誇る「タマダ」では、地下タンクの早期漏えいの監視システムを、外部のツールを使わず自社開発したのですが、その意思決定は社長自ら行っています。大企業の場合は企業風土が変わるまでに長い年月を要しますが、中小企業の場合は社長がひとたびDXの旗を掲げれば、一気に社内に浸透させることができるのです。