物流業界の3つの課題についてローランド・ベルガーの小野塚征志パートナーに解説してもらう企画。3つ目のテーマは「サプライチェーンの未来」で、前・後編の2回に分けて掲載している。

 前編で小野塚氏は従来型のサプライチェーンの特徴であった固定的な取引関係が崩れ、不特定多数との自由な取引が可能な「サプライウェブ」に進化すると方向性を指摘。製造工程、物流、ユーザーを切り口とした新たなプラットフォーマーが出現すると見通しを述べた。後編ではそうした変化に対して物流会社や荷主がどのように対応したらいいのかを語ってもらった。

物流会社は「供給プロセスをつなぐことの価値」を考えよう

小野塚 征志/ローランド・ベルガー パートナー

1976年東京都出身。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、構造改革、リスクマネジメントなどをはじめとする多様なコンサルティングサービスを展開。近著に、『ロジスティクス4.0』(日本経済新聞出版社)、『サプライウェブ』(日経BP)、『DXビジネスモデル』(インプレス)など。

 従来型の鎖につながれた「サプライチェーン」は旧態化し、自由な取引が可能なクモの巣のような供給ネットワークである「サプライウェブ」へと進化する新たな時代に、物流会社は何をすればいいのでしょうか。

 勝ち残り戦略としては、自らがロジスティクスプラットフォーマーになることを目指すという選択肢があります。調達・生産から販売までの供給プロセスを最適化するプラットフォーマーになることができれば、「輸送や保管といった作業を請け負うだけではない価値」を新たに創出できるからです。

 その際には上流から下流までつなぐという価値をいかに発揮するかを考えるべきです。例えば単に在庫の置き場を共通化するとか、トラックを共配することによって物流を最適化するだけではなく、調達・生産から販売・消費までの状況をリアルタイムで把握し、AI(人工知能)で将来動向を予測し、エンドユーザーへの提供価値を最大化するのです。

 メーカーは店舗でどれだけ物が売れているかはよく分かりません。しかし、運送会社はいつも店舗に商品を補充しているので、実は店頭の動きが分かってしまいます。物流会社は発荷主や着荷主、荷物の種類や数量、一般的な費用、リードタイムなどのさまざまなテータと物流・情報ネットワークを持っているので、その情報を生かすことができます。

 そうすれば生産物流から販売物流、ラストワンマイルに至るまでの過程で、在庫の適正化や商品開発の支援、人件費の圧縮、マーケティング支援といった価値を提供できるはずです。だから物流会社が情報プラットフォームになることもあり得るわけです。

新たな価値を生み出すにはマインドチェンジが不可欠だ

 新たな価値を生み出そうとするときに重要なのはマインドチェンジです。これまで日本の物流会社は荷主からの要望に最大限対応するという「対応力」が売りでした。しかし、これからのサプライウェブ時代には荷主に最適な方法を自ら提案する「提案力」が欠かせません。

 また従来のように、より多くのトラックを動かすことで「売り上げ」を最大化するのではなく、トラックの積載効率を高めることで「利益」を最大化するという発想の転換が必要です。売上至上主義ではなく、利益至上主義、あるいは価値至上主義に転換しないとプラットフォーマーにはなれないのです。

 荷主も同じです。自社のやり方にこだわっていてはいつまでたっても共同物流には乗れません。物流は独自路線ではなく、他社と協調し共用するという発想に転換しないといけないのです。