■DX企画・推進人材のための「リスキリング実践講座」(1)はこちら

 筆者は現在、住友生命保険に勤務し、デジタルオフィサーという役職でデジタル戦略の立案、執行を担当している。また、社内外のDX人材育成活動として年間40回以上の講演や研修を実施したり、社外企業数社の顧問としてDXの推進やDX人材育成のサポートをしたりしている。

 この連載はDX企画・推進人材が身に付けるべき「企画・推進の仕事ができる力」の養成を目的としている。DXでは新しいことを学び、それを生かして仕事を行う必要があり、これまでの知識やスキルでは対応できない場合が多い。このため、「リスキリング」を行う必要があり、この連載ではそれが学べる。

「理解している自覚」はビジネス発想力も低くする

 前回は、リスキリングの成功には「学びの仕掛け」が必要であることと、「理解している自覚」の弊害について説明した。今回もその続きとしてもう一つ事例を説明したい。

 マインドセット研修の3つ目のワークショップに「ビジネス基礎用語を掛け合わせて新しいビジネスを考える」というものがある。

 このワークショップを社外の複数企業が参加する勉強会で実施した際、「会社の考査で評価が高い人や会社での地位が高い人が多く含まれるAチ ーム」と、「経験が少ない比較的若い人たちで構成されたBチーム」にたまたまチームが分かれたことがあった。

 この属性が異なる2チームに、「クラウドファンディングを使って新しいビジネスを考える」という同じ課題を出し、用語や事例はスマホを使ってネットでいくらでも調べてよいという条件にしたところ、2チームは異なるアプローチでクラウドファンディングに向き合ったのである。Aチームは「クラウドファンディング」についてネットであまり調べず、既に自分たちが持っている知識をベースに考えた。

 その結果、クラウドファンディングを「資金を調達する融資の一種」と結論付けてしまったため、「資金調達の手段」としか発想しなくなり、行き詰まった。最終的にそこから深くならず、「産地直送レストランの開店資金をクラウドファンディングで集める」というアイデア1つしか思い浮かばなかったのだ。

 一方、Bチームはクラウドファンディングの定義が頭に入っていなかったのでスマホを使ってネットでたくさんの情報を集める行動をとった。すると、クラウドファンディングには「購入型」という種類があり、この方法だと予約販売で先に料金が取れるのでリスクなく飲食店ビジネスができるなど、資金調達手段にとどまらない使い方ができることを思い付いた。

 Bチームは、クラウドファンディングを「従来にないエッジのきいた商品を、マーケティングコストや店舗コストなど抑えて開発できる方法」で使えると結論付けた結果、「ビジネスする側が受注生産類似のスキームとしてあまりリスクを取らずに始められ、お客さまにとっては間接コストの少ない分、商品を安く得られるメリットがあることをアピール。「すごく辛いカレー」など、普通の店には置けないようなこだわりのカレーを、カレー好きが作り、リスクを取らずに予約販売する」というビジネスに行き着いた。これは良いアイデアだと筆者は思った。

 AチームとBチームの差は何か。それが「理解している自覚」と「理解していない自覚」の違いだ。「理解しているという自覚」があると、常識にとらわれ、今までの知識・考え方に固執するから、ネットを利用するなどして新しいことを調べることができないのだ。Aチームのメンバーは頭が固いと思う。その原因は「自分は理解している」という「不適切な自信」である。