見過ごされがちな「相続」の問題

小堺桂悦郎さん。企業に「借りる技術・返す技術」を指南する資金繰りコンサルタントとして相談に応じた企業数は2100社を超す。主に債務超過の資金繰りに悩む企業をクライアントに持つが、これまで倒産した企業はわずかに1社のみ。 2006年に刊行した著書『なぜ社長のベンツは4ドアなのか?』は大ベストセラーに。近著に『自転 車操業バンザイ! これが中小企業の銀行交渉バイブル‼』(サテマガ・ビー・アイ)がある。

 そしてもう一つ、小堺さんが事業承継に関して、強調したいのは相続の問題だと言う。

「とくに中小企業の事業承継の場合、相続の話は切っても切れない関係にあります。相続というのは言うまでもなく、良いところも悪いところもひっくるめて引き継ぐということです。必ず問題になるのは悪い面、負債についてです。相続の問題は、基本的に一般の皆さんが想像する以上にもめることが多いです。それも相続してから何年も経ってから、問題が噴出することもあり厄介です」

 一つの事例をご紹介したい。

 社長が亡くなり、息子が会社を継ぎ遺産相続した。相続した時点ではそれほど問題があるようには思えず、法定相続人である妻と、独身だった30代の息子にスムーズに相続が行われた。

 それから数年して息子は結婚し子どもができる。つまり、亡くなった社長とその妻にとっての孫ができたときに問題が起きたのだ。

「そのときに噴出したのが、亡くなった社長の妻、息子の母親の問題です。孫ができると、その遺産は息子と結婚したその妻、そしてその子どもたちに引き継がれていくことになるのです。と、同時に亡くなった社長の妻である母親は相続権を失います。これは相続の中でも一番もめるケースです。今回のケースでは母親と息子のお嫁さんとの仲がよくなかったのでなおさらでした。社長が亡くなった時点では、純資産1千万程度の家内企業だったのですが、数年して孫ができたころには純資産1億円を超える企業に成長していました。このように何年も経ってから、もめるケースが相続の場合は多いことも忘れてはいけません」

 経営、相続、事業承継における知識がないと、うまくいったと思っても時間が経過してから大きな問題が起きる、そんな可能性があるのだ。

 では、最低どのくらいのことを知っておくべきだろうか。ここで事業承継、M&A、廃業について簡単に解説しておきたい。 

 事業承継の場合、後継者への承継が基本になるが、まずは子どもを筆頭に親族に引き継がせることを考える社長が多いだろう。ただ、最近では子どもが事業を継ぐのを嫌がるケースや、逆に親も子どもに継がせるのを躊躇うケースも多い。

 その場合は、従業員から適任な人を探し出して経営者として引き継いでもらう選択肢がある。

 いずれにしても株を譲渡することで、経営者を交代することを言うが、ここで重要なのは、事業自体を引き継いでもらうわけだから、そのための準備や教育も必要になるということだ。

「準備に関しては、これまで社長が築き上げてきた信頼がないと事業はうまく回りませんから取引先との関係なども含みます。また中小企業の社長の場合は、会社に対して個人で連帯保証している場合も多いでしょうから、そうした負債の引き継ぎも行わなくてはなりません。ただし先にも触れましたが、負債と事業を切り離せるケースもありますし、連帯保証を残すという方法もあります。一概に負債があるから事業承継したくないと考えるべきではありません」