デジタルトランスフォーメーションはどんな未来をもたらすか。

「これは、かなりやっかいなオーダーだなぁ」

 住宅設備機材メーカーで生産管理を担当している吉田(仮)が、画面に表示された注文を見てつぶやいた。普段、あまり注文されることのないオプションが並んでいる。しかも希望納期がたった1週間だって!

 また昔の感覚で反応してしまった。そしてまた、いつものように苦笑いだ。

 3年前なら、「バカヤロー!」と営業に突っ返していただろう。しかし、新しいシステムが動き始めた今となっては、そんなストレスを感じることはなくなった。むしろ余裕さえある。

 以前であれば、工程の段取り替え、部材の手配、作業者のスケジュール調整など、個別のシステムとにらみ合って確認し、それぞれの現場に頭を下げてやりくりしてもらわなければならなかった。そして現場もまた大騒ぎで段取りを組み直す。部材の手配もし直さなくてはならないが、それも業者と連絡を取り、無理を通してもらわなくてはいけない。そんな大騒ぎを一通り済ませても仕様変更がスケジュールを狂わせる。どんなに頑張っても1カ月はかかっていただろう。それが、1週間で「余裕」なのだから驚きだ。

 工場の設備、作業者のスキルやスケジュール、部材の在庫、部品メーカーの工程までが、全てリアルタイムで把握され、オーダーや現場の進捗に応じて、スケジュールや手配がダイナミックに変わってゆく。

 最短納期で最低コストを実現するためにはどうすればいいのかをAI(人工知能)が見つけ出し、現場に指示を出し製造設備や搬送装置を制御する。外注先への発注も自動で行われる。もちろん品質についても徹底した検査が行われ、その結果もまたAIで解析されて、製造装置の設定データを常に最適な状態に保っている。

 設備のメンテナンスのタイミングも、それぞれに組み込まれたセンサーデータや稼働状況、スケジュールから割り出し、工程への影響が一番少ないタイミングを教えてくれるので、設備稼働率が3割も向上した。それは製造原価にも反映され、高品質で低価格が圧倒的な競争力となって、もはや他社に追従を許さない。