シスコシステムズCEO(当時)のジョン・チェンバース氏(2011年1月撮影)。2015年のCESでは、IoTなどのテクノロジーによる破壊的イノベーションを唱えて注目を集めた。 Photo by Oracle PR, under CC BY 2.0.

 IoTは1980年代後半以降に次々起きたデジタル革命の中でも、桁外れにインパクトが大きい「破壊的イノベーション」(Disruption)である。そして、それは多くの企業が「持続的イノベーション」の連続でコツコツと積み上げて創り上げてきたビジネスモデルを破壊し、焼け野原に変えてしまうだろう。

 IoT導入を境に、企業の「なりわい」(生業)は大きく変わる。企業とお客様はデータを媒介にして「時間」という軸でつながり続ける。既存のサービス業はもちろんのこと、現在はモノの製造や販売に特化している多くの企業も含めて、すべての産業は「お客さまの成果ベースで稼ぐ新しいタイプのサービス業」へ進化をせざるを得なくなるのである。

 企業間の競争ルールは、もはやモノやサービスの機能的価値の優劣の対決ではなく、お客さまに新しいサービスの形で提供されるエクスペリエンス(ブランド体験価値)とエクスペリエンスの戦いになっていく。

「なりわいワード」を構想し、バックキャストでロードマップを描く

 したがって、IoT時代、企業にとって「持続的イノベーション」の積み上げで中長期の事業計画やマーケティング施策を検討するという従来型手法はもはや通用しなくなる。企業はミクロ・マクロの環境分析(SEPTEmber/5Forces分析、下図参照)によって多視点型で来るべき未来を洞察し、さらにブランドの強み・弱みを検討して自社のありたき未来=近未来の「なりわい」を構想すべきである。そして、そこからバックキャストで明確なロードマップ=地に足の着いた成長戦略を描くことが必要になる。

SEPTEmber/5Forces分析。未来の起こりうる事象をキーワードで抽出し、マクロな外部環境要因や、ミクロな業界内の競争要因を分類・分析する。
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 重要なのは、企業が未来のどの部分をつかみ、生き残りのために必死で磨きをかけるべきかという本質的な問いかけである。逆説的な言い方かもしれないが、未来は企業の意思である程度、変えることができる。「未来を予知する最良の方法は、それを発明してしまうこと」(パーソナル・コンピュータの父、アラン・ケイの箴言)なのである。

「なりわいワード」の策定。ブランドが近未来のお客さまに提供するエクスペリエンスを分かりやすく説明したもの。
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