談=中野香織 構成=山下英介
JBpress autographでは4月6日より、モード&ラグジュアリーの特別企画「LOOK BOOK 2020 Spring and Summer」をスタート。服飾史家の中野香織さんが読み説いた〝時代の潮流〟と、そこに基づき選んだ15ブランドの最新スタイルをお届けしよう。まずはモードの革新者たちから。
先が読めない時代において、「モードの役割」とはなにか?
2020年という年は、大きな歴史の転換点になると思います。こういった疫病が世界レベルで流行するのは、今から約100年前の「スペインかぜ」以来。世界経済も落ち込み、人々の考え方も社会の在り方も変わらざるをえません。終息後にどのようなシステムを築いていくべきなのか、世界で連携して知恵を出さなくてはいけません。
そんな先の読めない時代の中でファッションを語るのは、実に困難なことです。それは本来、平和ありきのものですから。しかしモードには、時代に風穴を開ける力があります。私がそれを実感したのが、2015年に〝グッチ〟のクリエイティブディレクターに就任した、アレッサンドロ・ミケーレです。
モードの力で時代を切り拓く、「イノベーター」たち
彼の最大の功績は、ジェンダーに関する多様性を一般にまで広めたこと。ジェンダーとしてのアイデンティティは状況に応じて変わるもので、他人が定義するものではない。そんな「ジェンダーフルイド(Gender fluid)」という概念を定着させ、同性婚を大っぴらにカミングアウトできる状況が訪れたのは、間違いなく彼の活動も一役買っているでしょう。そんなミケーレを抜擢した〝グッチ〟のCEO、マルコ・ビッザーリはまさに慧眼です。
大量消費文化へのカウンターとして今後定着してくるであろう、「クラフト」に目をつけ、「ロエベ ファンデーション クラフト プライズ」を開催し、優れたアーティストをパトロナイズしている〝ロエベ〟のジョナサン・ウィリアム・アンダーソンや、NBAとタッグを組むことでラグジュアリーファッションのスポーティ化をリードする〝ルイ・ヴィトン〟のヴァージル・アブロー。そこにはもちろんマーケティングも介在するのですが、私はそんなアーティストたちから、時代を切り拓くモードの力を感じます。
この記事は2020年4月6日に配信したものです。