「実際には、他のVCと組んでCVCを運営するケースもあれば、外部人材の採用や新規事業開発担当人材の登用を通じて自前で取組むケースもあります。事例としてよく取り上げられるのが、KDDI Open Innovation Fundです」

 VCのグローバル・ブレインと組んで、2012年以降、総額300億円のファンドを運用する『KDDI Open Innovation Fund』は、2018年4月に立ち上げた最新ファンドにおいてAI、IoT、ビッグデータ、ヘルスケア、ロボティクスなど5Gの時代を見据えた分野・領域を主な投資対象としている。

「KDDIはCVC以外にも、2011年からKDDI∞Labo(ムゲンラボ)という起業・ベンチャー支援プログラムにも取組んでいます。直近では2017年8月にソラコム(IoTプラットフォーム)を買収して話題になったように、KDDI本体によるベンチャー企業への出資・買収にも前向きです。KDDIは、ベンチャー支援プログラム、CVC、事業会社本体での出資・買収と、様々なラインアップでベンチャー企業へのアクセスを展開しています」

 起業家やベンチャーキャピタリストの間では、KDDIは、すでに「ベンチャーとの連携に積極的な企業」というプレゼンスが確立されており、良質の情報やシーズ、経営者が集まるようになってきているようだ。

オープンイノベーションにおける今後の課題

 では課題はどこにあるのか。特に「出島戦略」について、中村氏に聞いてみた。

「ベンチャーに出資(資本提携)しても、すぐに結果は出てこないのが普通です。むしろ失敗が先行して、成功はあとになって出てくることが多い。そういう意味では、長期の目線が必要です。また、しっかりとした目的意識を共有化しておかないと、投資や提携自体が目的化しかねません」

「他にも、担当者の異動ローテーションが短く、単年度の実績が評価されるような場合だと、敢えてリスクをとってベンチャーに出資するのに躊躇する、ということも十分あり得ます。そして、既存の事業とカニバリゼーションが起こる懸念があれば、社内の調整も大仕事になるでしょう。CVCの投資担当者が前のめりなのに、本体の事業部が全然相手にしてくれない、という声が広まれば、良いベンチャーも寄って来ません。形として組織は出来たものの、十分な権限と資金が投下されずに、ただ情報収集だけを延々と繰り返すことになれば、外部からはビジネスチャンスが無いと判断されて良い案件も持ち込まれません」

 それだけでなく、「本体」が「お手並み拝見」とばかりに非協力的だと、「出島」が孤立し、その担当者が本体と外部の板ばさみで苦しんでしまうことなども挙げられる。

「『出島』側に本体も巻き込める社内的な信用や能力の高い人材を投入するだけではなく、本体側の体制整備や機運醸成も必要かもしれません」(中村氏)

 大企業が大変革を迫られるのは、人間そのものの生活や考え方が変わってきたからにほかならない。ただし、大変革をして築いたシステムが何年もつかの保証は誰もできない。
 
 だとすれば、重要なのは常に柔軟に対応できるシステムであり、もっとも柔軟なシステムとは、柔らかい頭であり、実は、そもそもの考え方の問題なのかもしれない。