逆流することのない社会的背景

 このようにオフィスも住宅も差別化ポイントが「ハードからソフト・サービスへ」へとシフトしてきている。背景にあるのは3つの大きなマクロ環境の変化だ。

1) ミレニアル世代による価値観の変化
2) 売り切りの時代から顧客重視のLTV時代への変化
3) 働き方の変化

 1つ目は、ミレニアル世代による“所有”から“利用”への価値観の変化だ。1980年以降に生まれたミレニアル世代は、モノを持たず利用や体験を重視し、インターネットやスマホが当たり前のデジタルネイティブ世代である。こうしたミレニアル世代が今後更に経済のボリュームゾーンを担っていく大きな流れがある以上、ハードからソフトの流れが加速していくことだろう。

 2つ目は、売り切りの時代から顧客重視のLTV(Life Time Value:ライフタイムバリュー)時代への変化だ。住宅供給においてもパワーバランスが変化してきている。

 昨年、都内の新築分譲マンション市場において建物完成後も販売を続ける「完成在庫」が増加してきていることが報じられた。これは高度経済成長期やバブル景気時代のような住宅供給不足から、人口減少・少子高齢化に伴い住宅供給が過剰となってきていることを示す一例だ。もはや従来の売り切りビジネスの時代から、今後は顧客データベースに蓄積された顧客情報を基に、LTVを高め一人あたりの売上を高める顧客重視のビジネスの時代へ突入している。

 3つ目は、人生の大部分を占める仕事における働き方の変化だ。「働き方改革」の推進、人手不足、雇用制度の多様化、多用な人材活用、求められるイノベーション、ICTの進化(業務のクラウド化)など企業を取り巻く外部環境の劇的な変化に伴い、企業の人事制度や労務管理、働き方に変化が起きており、テレワーク・モバイルワークが急速に広がる。

 従来は「通勤するオフィスは1つ」、「毎日同じオフィスに通勤」、「社員は固定席」、「社内の人間と共に価値を創造」といった働き方が当たり前であったが、今後は「働く場所は複数へ」、「業務内容よって場所を選択」、「固定席でなくなる」、「社外の人間と共に価値を創造」といった働き方が当たり前となっていくであろう。

 つまり本質的に、“固定、大規模、集約”から“柔軟、小規模、分散”への変化だ。前述のWeWorkはまさにこうした働き方の変化に対応している。

求められる将来構想とリスクを取る胆力

 従来の業務プロセスの一部にITを導入して効率化や最適化を図るのは重要なことであり、過去・現在・将来も必要なことである。しかしながら、それではミレニアル世代による価値観の変化や顧客重視のLTV時代への変化、働き方の変化などの社会的な変化に対応しきれない。

 世の中にデジタルトランスフォーメーションという言葉が広がるように、収益モデルを根底から変えるビジネスモデルを構築することが求められる時期に来ているのではないだろうか。デジタルビジネスの世界は先着者利益。即ち先行してシェアを取った企業の1強となる傾向が強いため、如何に早い段階でリスクを見極め、リスクを取って飛び込むかである。

 経営者にはそうした将来構想を描く力とリスクを取る胆力が求められるだろう。