新たなエコシステムを作り上げようとする八重洲(写真:マリンプレスジャパン/アフロ)

 都心で進む再開発。2020年東京五輪はその大きな要因とされた。しかし、2020年と関係なく、再開発には新しい流れができつつある。ソフトの時代だ。
これからの不動産のあり方をニッセイ基礎研究所・金融研究部准主任研究員の佐久間誠氏に聞いた。(取材・文/曽我部 健)

オフィスビル需要に隠された新潮流

 「再開発」は不動産業界の一大トピックスだ。業界全体の好景気を支えたといえるが、一方で都心オフィスビルの供給過多を心配する声は多かった。ただ当面その予想は外れたと言えそうだ。三幸エステートの調査によると、丸ビルに代表される大規模でスペックの高いAクラスビルの空室率は1.2%(2018年2Q)。この数字はオフィス需要が堅調であることを示している。

 佐久間氏はこの状況をこう分析する。

「背景にあるのは、活況なIT産業のオフィス拡張意欲が高いこと、そしてより魅力的な「場所」を働き手に提供しなければ優秀な人材が確保できないことがあります」

 どういうことか。

「従来の製造業を中心とした産業構造では『売り上げを伸ばすこと=工場を増やすこと』でした。企業は工場を作り、この工場を効率化することが重要だった。しかし、経済の中心となりつつあるIT産業において生産現場となるのは工場ではなく、オフィスです。事業を拡大するにはシステムエンジニアの数を増やす必要があり、それにはオフィスを増やさなければなりません。また、オフィス環境が快適で、さらにそのオフィスが通勤しやすい利便性の高い場所、ステイタスのある場所にあれば、企業は人材確保もしやすくなります」

 デジタル化による産業構造の急速な変化の中で、生産現場が「工場」ではなく「オフィス」へと変わっていく。それも、ただ働く場所としてのオフィスではなく、付加価値を作るオフィスだ。

「作業するためだけであれば、スペースさえあればよかったかもしれません。しかし、求められる仕事がクリエイティブを伴うのであれば、これまでのオフィスとは違う形だよね、という意識が根底にあると思います」

 とはいえ、昨今の働き方の変化は「場所」を問わないようにも見える。