差をつくり出すのは「再開発」「交通インフラ」「インバウンド」

 こうした状況をもたらす要素は「3つある」と、佐久間氏は指摘する。

「ひとつは『再開発』です。再開発によって大きなビルが建てられ、街がきれいになったら、多くの人が集まるようになったという事例はたくさんある。2つめは『交通アクセスの改善』。東北地方最大の都市である仙台では、2015年に地下鉄東西線が開業したことで、交通利便性が高まり、路線周辺の住宅地の地価がかなり上昇しました。そして3つめの要素が外国人観光客の『インバウンド』。この影響が大きいことが今年の傾向でしょう」

 象徴的なのは地方都市の雄というべき大阪だ。「公示地価」では、ミナミ(難波などの商業地)がキタ(梅田などのオフィス街)よりも高くなったのである。

「これまで大阪では、オフィス街のキタほうが地価は高かったのですが、それを商業のミナミが上回った。大都市である大阪でもこれだけインバウンドが強いというのは、かなり象徴的な出来事といえるでしょう」

 その傾向は「路線価」でも続いており、ミナミの戎橋ビル前「中央区心斎橋筋2丁目」が22.3%も上昇し1184万円。大阪圏の税務署別最高路線価を35年連続で守ったキタの阪急百貨店うめだ本店前の御堂筋「大阪市北区角田町」の1256万円に肉薄し、その価格差は昨年の208万円から72万円になった。

 インバウンドの勢いは他地域の路線価でも顕著で、大阪圏での上昇率トップが東山「四条通大和大路西入中之町」で25.9%と高い上昇率を示すなど、訪日観光客で賑わう京都が並ぶ。

 この3つの要素は、1つだけでも効果があるが、2つ以上重なるともっと地価が上昇しやすくなる。たとえば、名古屋駅周辺地域は上昇率で全国5位、6位に入ったが、これは「リニア中央新幹線が開業する」ことに加え、「オフィス開発が進んでいる」ことが大きいという。

 もともと人が集まるエリアは再開発やインバウンドによってさらに地価が上昇し、人口が減少しつつあるエリアはさらに地価が下がっていく。それによって同じ都市内でも、より二極化、スポット化が進んでいる、というわけだ。

 佐久間氏は、こうした流れにある「地殻変動」を指摘する。

「もう1つ、象徴的だった数字に東京があります。これまで東京の住宅地の地価で最高額だったのが千代田区の番町でした。その番町を今回、港区の赤坂が上回った。番町と赤坂では住民層がまったく違います。番町には昔ながらの富裕層、一部上場企業のトップなどが住み、一方、赤坂はIT系などベンチャー企業のCEOなど新興富裕層が多い傾向があります。つまり、大阪ではインバウンドがオフィス需要を上回り、東京の住宅地では旧来の大手企業に代わってITを中心とした新興企業の力が強くなってきている。『地殻変動』というべきものが顕在化しつつあるんです」

 つまりこうだ。

「インバウンドやITというのは、旧来の価値観ではやや軽く見られていたものでした。それが名実ともに国の経済を支える位置づけにまで成長した。これは産業構造の変化の現れであり、まさしく地殻変動です。この価値観の転換は公示地価に見られたものですが、路線価にも当てはまります」

 二極化とスポット化が示すのは新しい時代が、名実ともにシフトしているという事実である。