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松藤京介
本田孝一
菅野弘幸
大原光明

東京急行電鉄株式会社

株式会社 NTTデータ

生活サービス事業部
メディア・マーケティング部
事業企画課 課長補佐
松藤京介

生活サービス事業部
メディア・マーケティング部
統括部長
本田孝一

IT サービス・ペイメント事業本部
カード&ペイメント事業部
営業統括部 ソリューション営業担当 部長
菅野弘幸

IT サービス・ペイメント事業本部
カード&ペイメント事業部
戦略・ビジネス企画統括部
ビジネス企画開発室 部長
大原光明

2018年4月、東京急行電鉄株式会社(以下、東急電鉄)と株式会社 NTTデータは、両社共同で開発したカードレスかつ実店舗で利用可能なスマートフォン向けクレジット決済ソリューション「.pay(ドットペイ)」をリリースした。自社グループのハウスカードとして、従来のクレジットカードでは実現できなかった独自のポイント制度やインセンティブを組み込むことができる世界に類を見ない画期的な決済プラットフォームとして、東急グループが運営するショッピング施設の各店舗で本格的に導入される予定だ。その開発の狙いや特徴、「.pay」が可能にする未来について、両社のプロジェクトメンバーに聞いた。

顧客とのコミュニケーション強化に向け 独自の決済ソリューション開発を決意

 鉄道事業を中心に、不動産、生活サービスの3つの事業領域を持ち、東急百貨店など小売業にも大きな事業ネットワークを展開する東急電鉄。2012年から「日本一住みたい沿線 東急沿線」「日本一訪れたい街 渋谷」「日本一働きたい街 二子玉川」を3つのシンボルに、「選ばれる沿線」として存在感を高めていく戦略を掲げてきた。その実践においては、現在120社を超える東急電鉄グループ全体の結束を高め、「ひとつの東急」の意識の下、さまざまな事業を進めている。

「.pay」も、「ひとつの東急」を実現する取り組みの一つだ。同グループでは30年以上にわたって、自社によるクレジットカード事業「東急カード」を運営してきた。会員数は100万人を超え、これだけの規模の決済事業を鉄道事業者が単独で、また、これだけ長きにわたり運営してきた例はまれだ。

 ただ、一方で課題もあった。「非常に多くのお客様がいて、その個人情報や購買履歴、さらには交通の移動情報に至るまで多様で有益な顧客データがあるのに、肝心のお客様とのコミュニケーションに生かせていませんでした」そう語るのは、東急電鉄生活サービス事業部メディア・マーケティング部統括部長で、「.pay」プロジェクトを指揮する本田孝一氏だ。

 有用な情報を最大限に生かし、激しい市場の変化の中で顧客とのコミュニケーションを図っていくにはどうしたらよいのか。同社では議論を重ね、その解決策としてスマホアプリに注目。これまでにないビジネススキームに取り組むことになった。その結実ともいえるのが、NTTデータと共同開発した「.pay」だ。

東急電鉄と NTTデータの協業で 前例のないビジネススキームを可能に

「.pay」が注目に値するのは、独自のビジネススキームだけではない。これがNTTデータとの協働プロジェクトによって生み出されたという点だ。一般に企業が自社のソリューションやサービスを開発する場合、ユーザー企業はベンダーやSIerに「業務委託」を行い、委託された企業は要件定義に沿ってシステムを作成する。だが今回は、対等の立場による「協働プロジェクト」の形式を選択した。狙いは何だったのか。

本田孝一

東京急行電鉄
本田孝一

私たちがペイメントでデファクトスタンダードを狙うには、自社だけでは難しいものがあります。確かにクレジットカード事業やサービス店舗といったリソースは持っていますが、全国で闘えるレベルのスキームを創出するには、ふさわしい力量を備えたパートナーが不可欠です。その点でNTTデータは申し分ありませんでした

 開発はとある意見交換の場から始まった。東急電鉄から発せられた「こんなソリューションは可能だろうか?」との問いに、NTTデータが「できます」と即答した。東京急行電鉄生活サービス事業部メディア・マーケティング部事業企画課課長補佐の松藤京介氏はこう振り返る。

松藤京介

東京急行電鉄
松藤京介

当社としては、かなり要求レベル高めのオーダーだと考えていたのですが、何度もディスカッションする中で、このパートナーシップなら実現までこぎ着けられるとの確信を深めていきました

 このプロジェクトはNTTデータにとっても、大きな可能性を秘めていた。今回「.pay」に実装された「ワンアクションで決済に加えてポイントやクーポンの処理を完了する」機能は、すでにECの世界では常識。NTT データはこれをリアルの店舗で実現するべく議論を重ねていた。NTTデータITサービス・ペイメント事業本部カード&ペイメント事業部営業統括部ソリューション営業担当部長の菅野弘幸氏はこう明かす。

菅野弘幸

NTTデータ
菅野弘幸

当社は、ペイメントおよびその周辺におけるマーケットの動向やテクノロジーの進化を見ながら将来に対する仮説を設定してソリューション化しています。鉄道から不動産、小売、生活サービスまで幅広いビジネス領域を持つ東急電鉄様とのコラボレーションは、私たちのソリューションの真価を試す、またとない機会でした

 開発の過程では、ペイメント事情の視察のため先進地アメリカへも出向き、最新の事例を基に議論を重ねるなど、両社のメンバーが一体となって、文字通り“協働”でプロジェクトは進められた。

松藤京介

東京急行電鉄
松藤京介

ペイメントの分野では、アメリカは日本より先を行っています。視察などのリサーチで顧客に受け入れられている先行事例を取り込み、それらの成果を『.pay』に集約しました

自由度の高い決済&サービスを支える NTTデータのプラットフォーム「CAFIS」

「.pay」が世界でも類を見ない画期的な決済ソリューションと言われる理由は、複数のクレジットカードを持ち歩く不便さから顧客が解放されるといったことだけではない。むしろ本当の革新性は、従来のクレジットカードではできなかった“サービス設計の自由さ”にある。

 従来のクレジットカード会社が発行するカードにおいて提供可能なサービスは、発行元が定める利用規約の範疇に留まり、企業や店舗が独自のサービスやポイントなどを柔軟に付け加えることは難しい。もちろん東急カードでもそれは同じだった。カードを導入する側は各社一律で、東急カードの利用規約の定めに従うことになる。ポイント制度もTOKYUポインン1種類をメインにおいた利用に限られることが多い。

本田孝一

東京急行電鉄
本田孝一

それを『.pay』では、導入する各社ごとに定める利用規約に対してお客様から同意をもらう仕組みとしました。これによって、導入企業はそれぞれのお客様に最適な決済方法を選んだり、独自のポイントやサービスを付加できるようになります

 顧客本位のサービスを盛り込んで、顧客とのコミュニケーション強化を図りながら、一方でデータは「.pay」で一元管理し、グループ全社で共有できる。本田氏は「各社が顧客とのコミュニケーションを最適化できる一方で、顧客データをグループ全体で共有するという2つの目的を両立できる画期的なスキームになりました」と胸を張る。

 この「.pay」の画期的なスキームを支えるのが、NTTデータの提供する「CAFIS(キャフィス)」だ。国内最大規模のキャッシュレス決済の総合プラットフォームで、全国の百貨店や小売店、EC ショップ、官公庁など幅広い加盟ユーザーと、国内のほとんどのクレジットカード会社や金融機関を結ぶ決済取引の仕組みを提供している。

 NTTデータITサービス・ペイメント事業本部カード&ペイメント事業部戦略・ビジネス企画統括部ビジネス企画開発室部長の大原光明氏は、「.pay」の開発に当たって、「CAFIS」の多彩なポートフォリオと豊富な納入実績から得たノウハウをフルに活用したと語る。

大原光明

NTTデータ
大原光明

『CAFIS』はもちろんのこと、今回はスマホに対する決済機能の提供のため、小売店等の事業者がお持ちのスマホアプリに決済機能を組み込むことを実現する決済プラットフォームである『CAFIS Pitt(キャフィス ピット)』を活用しました。『CAFIS Pitt』はいわゆるAPIベースで構築。また、高度なセキュリティーを担保できるアーキテクチャを随所に盛り込んでいます

と実績を生かした開発に自信を見せる。

 また、クラウド型総合決済プラットフォーム「CAFIS Arch」 などの各種ソリューションを利用することで、導入企業はスムーズに「.pay」対応を進めていくことができるという。

柔軟なサービス設計ができる「.pay」で 日本のリテールの人々をハッピーに!

 松藤氏は、いつかは「.pay 」を通じて日本のペイメントを変えていきたいと抱負を語る。

松藤京介

東京急行電鉄
松藤京介

しばしば日本のカードは手数料が高いと言われます。これは、カードが販促のプロセスで十分な役割を果たしていないからです。『.pay』は、決済プロセスに販促情報の発信などを柔軟に組み込めるため、店舗自身のアイディア次第で、単なる決済サービスではなく、マーケティング全般をカバーするプラットフォームとして来店者の利用価値を高めてくれます

 店舗独自のハウスカードとして活用できる「.pay」の柔軟性と自由度の高さで、日本のリテールを支える人々に貢献できるものになってもらいたいと松藤氏は夢を語る。

 東急電鉄は現在、来年からの本格導入に向けて「.pay」を準備中だ。ポイント付与からクーポン利用、そして決済までワンアクションで完結するメリットは想像以上に大きく、店舗が来店者に提供する質の高いCX(顧客体験)は見逃せない。また、そうした来店者との接触が、リピーターの獲得など、マーケティング施策につながる可能性から、すでにいくつか導入を決めた店舗もあるという。もちろん煩雑な作業を強いられるレジ担当者の負担軽減になることも、導入を促す大きな要因になっているだろう。

.payでは決済と同時に特典処理が可能となる。アプリ起動、クーポンを選択したのち、QRコードを読み取るという流れで操作も簡便

 本田氏は、今回のプロジェクトで得られた一番の成果は、やはりNTTデータとの協働を経験できたことだと語る。

本田孝一

東京急行電鉄
本田孝一

世界の市場と伍していくには、バックボーンとなる技術力が中途半端なものでは到底立ちゆかない。今回、NTTデータという強力な技術パートナーと出会い、これなら闘えるという確信を得られました。これが、メンバーの大きな自信につながりました

 パートナーとしてプロジェクトに関わったNTTデータは、今回得たものを起点に今後にも目を向ける。

菅野弘幸

NTTデータ
菅野弘幸

当社が構想してきたテクノロジーやソリューション、サービスのあり方を、東急電鉄の持つリアルなビジネスやマーケティングの現場に実装しながら、その結果をさらに意義あるソリューションにつなげていきたい

大原光明

NTTデータ
大原光明

今後はデータ分析やセキュリティーといった最新技術に積極的に取り組み、東急電鉄がペイメントの世界でリーダーシップを取っていくために貢献していきたい

 東急電鉄とNTTデータは、将来的に「.pay」を東急グループ以外の全国の顧客および企業に展開していく構想だ。

本田孝一

東京急行電鉄
本田孝一

次世代のプラットフォーム実現のためにも、まずはファーストステップとしてグループ内外で実績を積み上げることが最優先であり、そこから次のステップが見えてくると考えています

 誕生したばかりの「.pay」が、リテールマーケットに与えるインパクトは計り知れない。