日立アカデミー取締役社長の迫田雷蔵氏(写真:酒井俊春)

 抜本的な人財改革の取り組みを10年以上にわたって続けているのが日立グループだ。これまでジョブ型マネジメントや、グループ各社のCEO候補を早期に選抜して育成するシステムなどの導入を次々に進めてきた。そして現在、この改革の遂行役を担うのが日立アカデミーだ。グループ内にあった3つの研修機関を統合し、2019年に設立した人財育成専門のグループ会社である。一体どのように人財改革を進めているのか。同社取締役社長の迫田雷蔵氏に話を聞いた。

ジョブ型への移行は、リスキリング教育の強化と両輪で行うもの

――日立グループではジョブ型マネジメントへの移行を進めています。どのようなことを行っているのでしょうか。

迫田 雷蔵/日立アカデミー 取締役社長 1983年日立製作所入社。一貫して人事・総務関係の業務を担当。電力、デジタルメディア、情報部門の人事業務を担当後、2003年から本社で処遇制度改革を推進。2005~09年、米国に本社があるHitachi Data SystemsでHR部門Vice President。その後、本社グローバルタレントマネジメント部長、中国アジア人財本部長、人事勤労本部長等を経て、2017年日立総合経営研修所取締役社長に就任。2019年4月より現職。
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好きな言葉:「人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない」
注目している経営者・ビジネスパーソン:ポール・ポルマン(元ユニリーバCEO)
おすすめの書籍:『ローマ人の物語』(著:塩野七生)

迫田雷蔵氏(以下敬称略) ジョブ型マネジメントは、社員それぞれのキャリアプランや育成計画を会社任せにせず、個人がやりたい仕事やキャリアプランを考え、そのために必要なスキルをみずから身につけていく世界観だと考えています。

 そこでポイントになるのが、社員みずからスキルを身につけられる環境を用意すること。つまりグループ一体でのリスキリング教育の強化が求められます。この考えから、日立グループでは大規模な施策を開始しています。

 まず前提として、社員が希望するキャリアを考え、それに向けて必要なスキルを自分から習得するには、そもそも日立グループの各職務・ポジションでどんなスキルが必要なのか、会社側が明示することが必要です。そうすることで、社員は自分が目指すキャリア・ポジションに対して今どのスキルが足りないのか、何を学べばいいのか気づくことができるからです。

――各職務で必要なスキルをどうやって社員に明示するのでしょうか。 

迫田 会社として「ジョブディスクリプション(JD)」というものを用意しています。いわゆる職務記述書であり、各職務における責任や職務内容とともに、そのポジションで必要なスキルを記しています。これを見て必要スキルと現状の“ギャップ”に気づいてもらい、リスキリングへと進んでいきます。

 そのほか、上長との1on1ミーティングなどを通してギャップの把握を行います。個人が自分でキャリアを考え、自発的にスキルを学ぶには、上長の支援や後押しが大切になってきます。そこで私たちは、マネージャー向けのジョブ型マネジメント研修を開発し、まずは日立グループの部長クラス約1600名に1年かけて教育を行いました。昨年度のことです。今年度は課長クラスに展開しています。

日本は本気で学ぶ文化を作らなければ、これから世界で勝てない

――ギャップや必要なスキルを明確にした社員に対し、学ぶツールやコンテンツも用意しているのでしょうか。

迫田 LXP (Learning Experience Platform)という「学び放題」の学習体験プラットフォームを提供し、いつでも自主的な学習を可能にしています。LXPでは、目指すジョブと現在の仕事、強化したいスキルなどを登録するとAIが学習履歴と合わせて分析し、一人一人に最適な学習コンテンツを推奨する機能も備えてます。

――日本人は現状の仕事や待遇に満足しているため、学ぶ意欲がなかなか上がらず、リスキリングが進まないという声も聞かれます。何か対策は取られていますか。

迫田 深刻な問題だと思います。いまの待遇への満足からスキルを上げるのに無関心な人は少なくありません。しかし、貪欲に学ぶ人々とどちらがより成長できるかは明らかです。日本全体としてもこれから学ぶ文化を作っていかないと外国に勝てないでしょう。

 その文化を作るためにも、ジョブ型マネジメントに移行したといえます。キャリアを自分で考え、必要なスキルを明確にすることが学ぶ意欲を生むと考えるからです

 まだリスキリングの施策は始まったばかりですが、現時点で日立グループのLXP使用率はグローバルの一般企業の平均を大きく超え、当初私たちが設定した目標値も超えています。現時点の数値、学ぶ姿勢には満足しています。

 しかし、この状況を継続させることが重要です。コンテンツの利用状況や、どういったメールを社員に配信すれば学習意欲につながるかなどをデータ分析し、学びの習慣化を図っていきたいと考えています。