沖電気工業 理事・デジタル責任者(CDO)の坪井 正志氏(撮影:矢島 幸紀)

 コロナ禍はさまざまな業界のサプライチェーンを直撃し、多くの企業に深刻な被害をもたらした。大手電気メーカー、沖電気工業(以下、OKI)も多大な被害を受けた企業の1社である。同社の2022年度の売上高は前中期経営計画の目標4650億円に対して3691億円、営業利益は目標200億円に対して24億円と大幅未達となった。2023年5月、同社は巻き直しを図るべく「中期経営計画2025」を発表。さらに6月には「DX戦略2025」を打ち出した。同社のDXのキーパーソンである理事・デジタル責任者(CDO)の坪井正志氏は「DX戦略2025は、DXをよりOKIに浸透させ、中期経営計画を全面的に支える位置に引き上げた点がポイント」と語る。DXへのコミットをさらに深めるOKIの意図は何か。

DXの効果をぐるぐる回転させ、DX戦略をより強くする

――2022年6月に「DX戦略」を発表していますが、今回の戦略はどこが違うのでしょうか。

坪井正志氏(以下敬称略) 2022年のDX戦略は「自社内のDXに取り組み、そこで得られた技術・プロセスを外部化し、お客さまのDX実現に貢献する」というものでした。DXの効果を出す場所として社内に2カ所、外部に2カ所の計4つの象限を設定し、DXを推進してきました。この設定はDX戦略2025でも変わりません。4つの象限を記したのが、下の図です。

OKIのDX戦略2025の全体像。4つの象限を設定し、それぞれで目標を置く。各象限では個々の目標を達成させていくが、他象限の目標にも留意し全体として「将来事業の創出」を目指す
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坪井 正志/沖電気工業 理事・デジタル責任者(CDO)

1960年東京生まれ。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、1983年沖電気工業に入社。ソフトウェア開発、SE、商品企画を担当し、新事業創出としてコールセンターシステム(CTstage)の企画、開発を実践、国内トップシェアの商品に育てる。その後、企業ネットワークシステム事業部長、情報システム事業部長、取締役専務執行役員ソリューションシステム事業本部長などに従事し、2022年4月よりデジタル責任者(CDO)に就任、DX戦略の策定、推進を行う。
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座右の銘:「Simple is the best.」。座右というほど偉そうなものではありませんが、いつもこれを頭の中で考えています。
尊敬するビジネスパーソン:稲盛和夫さん
好きな書籍:「サピエンス全史(上・下)」(ユヴァル・ノア・ハラリ著)。文明・文化が「虚構」という軸で説明できることに目から鱗でした。

 社内革新として行うのが、図の左側の2つで、その1つが「組織の変革」(図の左上)です。全員参加型のイノベーションに取り組み、社員からビジネスアイデアを募っています。また、既存の組織からイノベーションを起こすための国際規格ISO56002(イノベーション・マネジメントシステム)を全社で推進します。もう1つが「業務プロセスの変革」(図の左下)です。国内外の生産拠点を「バーチャルOneファクトリー」として統合し、生産性アップやサプライチェーンの強靭化を図ります。

 これに対して、社会・お客さまの課題解決につなげるのが図の右側の2つです。1つ目が「既存ソリューション強化」で、外部向けのDXとしてOKIが得意とするATM(現金自動預け払い機)で培った製品の運用やメンテナンスも含むリカーリングビジネスへの移行を目指します。2つ目が「新ソリューション創出」(図の右上)です。AIやIoTによるエッジソリューションを用いて現場のデータ収集・分析環境を高度化し、データ共有で新たな価値を創造します。

 2022年のDX戦略では、4つをそれぞれ個別で推進していましたが、DX戦略2025からは「既存ソリューションを改善して新ソリューションにつなげる」「新ソリューションを既存ソリューションの強化につなげる」というようにお互いを関連させます。この4つを密接につなげ、相互に連携させることでぐるぐる回転させ、DX戦略全体をさらに強力にしていきます。それにより、OKIの将来を支える事業を創出していこうと考えています。