作業改善に対する必要性と優先順位の意識の差が、作業標準の見直しの活発度に表れる

 作業標準をどれだけ見直し改訂しているかは、現場の改善の活性化度合いを表す指標のようにも捉えることができる。

 改善を積極的に進めていない現場は、一度作り上げた作業標準を後生大事にする。苦労してやっと完成し定着したのだから変えたくない、改訂すると仕事が増え、その時間的余裕がないなどという心理も働くのではないか。改善が積極的に進む現場は、作業標準の改訂は当たり前、日常業務という感覚さえある。ここに大きな違いを感じる。

 また、「作業標準書」の改訂、承認、発行、差し替えの手間も、改訂が進まない要因の1つにもなりうる。「作業標準書」を文書として正式に発行する際の手順として手続きが重くなってしまっているケースである。極端な話、作業標準書の改訂が大変だから、作業を変えないという事象も発生している。これでは元の木阿弥(もくあみ)である。改善はしたいけれどやらないという決定を、作業標準書の手続きの重さからしてしまっているのであり、実に不幸な話である。そのような現場では、そうはいってもやりたい改善をしないわけではないので、作業担当者の個人的なメモに書いて、これを実施し、新しい作業者にもこのメモを伝えていく。

 作業標準と実施している作業に微妙な食い違いもある。現場に発行されている作業標準は、誰も開くことなくきれいに保管されている。このような状況に陥ってしまい、作業標準そのものの存在意義が怪しくなってしまっている。本来は作業標準を作ることが目的ではなく、使うことが目的である。

作業標準に在り方を見つめ直し、作業標準の定期的な振り返りチェックの活動を展開する

 現場における作業標準の在り方を整理しよう。次の3つのことがキーポイントになると考える。

① 現場の管理監督者が、今の作業標準を最高のものと捉えないこと。
② 作業者には、最適な作業方法を自分の中だけに収めず、作業標準に収めることを周知徹底すること。
③ 重すぎず効率的に発行できる作業標準の形態に工夫すること。IT活用でより生きた作業標準に進化を。

 ①や②については、言わずもがなの世界でもあるように感じるが、これを実践できるかどうかは意識に強さ、優先順位の捉え方によるところが大きい。品質管理の面から言えば、不具合が起きてから作業を見直すのではなく、起きないための作業標準にしなくてはならない。人依存の作業方法を見直すことも、ミスを起こさないためのポイントを確実に作業者にインプットすることも、作業標準の役割である。作業標準の分かりやすさについても、創意工夫をしながら作業標準を進化させていってほしい。そして、定期的に振り返り、見直しが進んでいるか否かをチェックしてもらいたい。

 ③については、改善の余地が多い会社も少なくない。ITなどのツールも進化しており、情報管理はより効率的に行うことが可能になっている。従来のようにワープロで原稿を書いて、写真を貼り付けて、出力して、承認印をもらって、配布して、ラミネートして、現場に掲示して・・・ではやはり手間がかかる。インフラ環境と参照端末がそろえばすべて電子媒体で行うことができ、発行までの多くの作業を簡素化することができる。

 工程への製造指示情報(作業指示書や生産計画表など)と連動すれば、製造する製品に特化した作業標準も瞬時に読み出して表示させることもできる(バーコードを読んで工程の端末に作業標準を表示させるなど)。また最近では、動画を活用した作業標準を導入している会社も増えつつある。動画の作業標準は、言葉では伝えにくい動きを伝えられたり、作業の標準スピードを伝えられたり、あるいは言葉で文章を書く作業が省けたりするなどのメリットがある。また、外国籍の作業者に向けた多言語の作業標準が必要な製造現場でも有効な手段になっている。

 品質リスクマネジメントにおいては、作業設計時のリスク検討と対策の標準反映を行うが、製造開始後のリスクレビューも必要であり、さまざまなリスクの変化が起き得るという観点でも、作業標準の見直し、進化は必須であると認識すべきである。

コンサルタント 安孫子靖生 (あびこ やすお)

生産コンサルティング事業本部
シニア・コンサルタント

品質の領域を中心としたコンサルティング活動を展開、品質保証体制の構築、品質マネジメントシステムの構築、改善、品質管理改善、業務プロセス改善、ISO9001・IATF16949・ISO13485などの導入支援等を専門としている。製造業をはじめさまざまな業界での経験を有し、営業、設計開発、製造のプロセスの連携を重視した品質マネジメントを目指し、改革立案、推進指導、各種研修を展開している。