働き方改革の落とし穴「報酬」と「給与」の違い

 働き方の変化による「税金」についての知識も経営者には欠かせないだろう。

 昨今の雇用体系として正社員ではなく、契約社員や業務委託というような働き方も増えてきた。

 このとき、企業にとって重要なのは、報酬か給与かという点だ。報酬は源泉徴収しなくてもいいものがあるが、給与は源泉徴収しなくてはならない。そこで、税務調査で問われるのは次のような点だと田中さんは指摘する。

「たとえば報酬として、30万円を支払っていたとします。その場合、交通費や経費の負担も報酬の中からしなくてはならないのです。ところが、会社には席がある、パソコンも支給されている。交通費の請求を受けているということになれば、そもそもが、それは報酬なのか? 給与ではないのか? という追及を受けることがあります」

 月30万円、年収360万円の報酬を支払っていた人が10人いたとして、それは給与ですと指摘されると、源泉徴収していなかった会社が悪いということになる。「その額は決して小さくないことを覚えておいてほしい」と言う。

相続の問題は5年先のことも考える

 また、税金の問題を考えるときには相続の話には触れておかなくてならない。一番問題になりやすいのは、被相続人の納税義務は、相続人が承継する、という点だ。

「こんなことがありました。個人事業主であるお父さんが亡くなった。ところが亡くなる前の3年間、かなりいい加減な申告をしていたことがわかった。家族の誰も知りませんでしたが、税の徴収時効は5年もあるので、お亡くなりになったからといって、税務調査の対象を外れるということはありません」(田中氏)

 当然のことながら、相続人は配偶者と子どもだ。いきなりの納税義務を言い渡されて遺された家族があたふたする姿は想像に難くない。

 ちなみにこの場合、相続放棄をするという手段も考えられただろうが、それでも亡くなった3か月以内にしなくてはならないというルールがあることを知っている人は多くはないであろう。

 こうした悲劇を生まないためにも、先々を考えた税金対策というのが、経営の鉄則であると言えそうだ。

 そして何よりも、最初に節税ありきという姿勢を改め、キャッシュを残すことで得られるメリットについて考えることも経営上、重要な観点であることを覚えておきたい。