企業をデジタルの力で強くする「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の推進が急がれている。ただ、その全貌はつかみどころがなく、取り組む企業側にも戸惑いが見られる。一方でデジタルネイティブのディスラプター(創造的破壊者)が登場し、さまざまな業界に揺さぶりを掛けている。2018年5月にウイングアーク1st代表取締役社長に就任し「データによりエネルギー革命を起こす」と宣言する田中潤氏に、その真意とDX実現の要諦を尋ねた。

DXの本質とは業務を見える化して
そこに潜む課題を解決すること

――DXは、テクノロジーやビジネス戦略に関心の高い人々の間で以前から知られてきた言葉です。それがここ数年、にわかに注目を浴びるようになったのはなぜでしょうか。

DXを理解する上で、Uberの登場は外せません。ご存じの通りUberは、一般の人々が空き時間に自分のクルマを使って行う運転サービスです。配車依頼から支払い、ドライバーとサービスの評価まで、すべてスマホアプリで完結しており、デジタルの特性やメリットを最大限に生かした革新的なビジネスモデルです。私はこのUberの成功こそが、「社会や企業の課題を可視化し、画期的な仕組みで解決する」というDXの本質を、明快に示していると思います。

世の中には、課題があるのに解決されないままになっていることがたくさんあります。タクシーもその一つだったと言えます。いざ利用しようと思ってもなかなか拾えない、到着しないと料金が分からない、最短ルートなのか回り道なのかドライバー任せ。でも、それがタクシーだから、とだれもが考えていました。その常識に疑問符を突き付け、固定概念を破壊したのがUberだったわけです。

ここで注目すべきは、Uberが提供する「希望する場所まで自動車で送り届ける」というサービス自体は、従来のタクシーと変わらない点です。変化したのは、自分の乗りたい時に利用できること、所要時間やルート、料金が明示されることです。これまで「仕方がない」と思って諦めていた点を、デジタルの力で全て解消したのです。これこそがデジタル化のメリットである「物事を数値で定量化し、見えるようにする」ことであり、これがブラックボックスに潜んでいた課題を、解決したのです。

これは企業においても全く同じです。その人しかできないと思われている仕事や、時間がかかるから仕方がないと思われていた業務が、定量化することでどこにネックがあるのかが見えてくるのです。企業におけるDXの実践とは、会社として自社の業務をデジタルの力で見える化し、中に潜む問題点を見つけ出して解決するという一連の取り組みだということができます。DXと言うと新しいもののように聞こえますが、本質は、日本の製造業が得意としてきた「カイゼン」に近いと思います。変化が激しく成功体験が生かせない事業環境、そして限られたリソースの中で、ビジネスを成功に導くには、自分たちに潜んでいる問題点を進んで見つけ出し、一つ一つ解消していかなくてはなりません。それをデジタルの力で推し進めるのがDXなのです。