以上、前回と合わせて4つの側面から、シスコの企業経営の姿を掘り下げてみた。シスコカルチャー、VSEMという経営執行管理プロセス、ビジネステクノジーが、相互に関連しながら、サッカー型の組織で実行されていることが理解できる。シスコによるこれらの取り組みの最大の目的は、社員のポテンシャルを最大限に引き出すことにある。平井社長も「経営者にとって最も重要なのは“Unlock the Potential”にある」と説明する。これが顧客に驚きを与え、ビジネスを成長させる原動力になるのだ。
しかしそれだけではなく、高度なリスクマネジメントにつながることも見逃せない。これは東日本大震災直後のシスコ社員の行動を振り返れば、はっきりとわかるはずだ。
まず交通網が乱れた期間、シスコでは多くの社員が自宅勤務によって、平常通りに業務を遂行していた。自宅待機ではなく在宅勤務だ。シスコ社員はビジネステクノロジーによってどこででも社内と同じように仕事ができるため、このような対応も可能になったのである。また各社員がシスコカルチャーやVSEMによって、「何をすべきか」を自分で判断できたことも、在宅勤務が可能になった大きな要因だといえる。
その一方で、被災地支援も積極的に進められた。避難所でのワイヤレスLAN環境や、子どもたちをケアするためのビデオコミュニケーション、遠隔からの医療相談やカウンセリングなど、多岐にわたるシステムを短期間のうちに構築しているのだ。しかもこれらの活動は、社員が自発的に、社会の一員として自分たちがやるべきことに、率先して取り組んだ結果なのである。


