日本経営品質賞報告会レポート ~シスコの経営品質はどのように実現されたのか~【前編】

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シスコカルチャーが生み出す全社共通の価値観

シスコカルチャーはシスコ経営を理解するための第2の側面であり、13の行動規範から構成されている。その中には“No Technology Religion (技術を過信するな)”や“Fun (楽しめ)”といった文言も含まれている。米国に本社を持つIT企業というと“冷徹な技術屋集団”というイメージを持つ人も多いかもしれない。しかしシスコはそのイメージの対極にあるような企業だといえる。

さらにこれらの行動規範が、“Cisco Family (シスコで働く社員とその家族を大切にする)”と“Customer Success (顧客の成功に貢献すること)”によって、挟まれているのも大きな特徴だ。会社が何のために存在しているのか、そしてそれを実現するメンバーをどのように扱うのかが、明確になっているのである。シスコの社員はこのシスコカルチャーが明記されたバッジを、常に携行して価値観を共有しているのだ。

シスコカルチャー バッジ

このシスコカルチャーが徹底されていることは、実際の組織運営にもはっきりと現れている。

例えばグローバルビジネスの展開方法を見てみよう。多くの外資系企業では、本社が各国現地法人の上位組織となり、現地法人は本社の意向にそってビジネスを行うのが一般的だ。これに対してシスコ本社は、各国のベストプラクティスを吸収し、それを他の国にも展開する“ハブ”の役割を果たしている。現地法人の独自性が尊重されており、本社との対等な関係の中でオペレーションが行われているのである。

シスコはまた、数多くの企業をM&A (吸収・合併) してきたことでも知られているが、ここでもシスコカルチャーを見ることができる。M&A後は事業そのものの統合を短時間で遂行する一方で、組織や人財 (このレポートではあえて“人材”ではなく“人財”という表現を用いる) の統合は決して急がない。お互いが信頼しあえる関係になるまで、じっくりと時間をかけるのである。

現在のシスコは、各種ネットワーク製品、ISP向けインフラ、コラボレーション、データセンターや仮想化などをカバーした、総合ICT企業として進化している。これが可能になったのも、過去26年間で行われてきた約140社に上るM&Aを、着実に成功させてきたからなのだ。

人財の採用もカルチャーへの適用を重視

もちろんシスコカルチャーを組織の隅々にまで浸透させるには、それに適応した人財が必要だ。「特に欠かせないのが一人ひとりの“パーソナル リーダーシップ”です」と平井社長はいう。

シスコではそのための“リーダーシップ コンピテンシー”を「C-LEAD」という5つのキーワードにまとめている。Cはコラボレーション(Collaboration)、Lは学習(Learn)、Eは実行(Execution)、Aは加速(Accelerate)、Dは破壊(Disrupt)だ。

リーダーシップモデル C-LEAD

「この中で最も重要なのはコラボレーションです。事業領域が拡大するにつれてチームで動く必要性が高まっているからです。また最も難しいのはDが意味する破壊、現状打破です。しかし創造的破壊なくしてイノベーションは生まれません」

シスコでは新卒・中途を問わず、採用面接ではこの5つのコンピテンシーを基準に評価を行っているという。またマネージャーに対しては、これらのコンピテンシーを理解するための研修を義務づけ、人事評価もこれらの観点から実施しているのだという。

以上、シスコ経営の特徴を、組織マネジメントとカルチャーの側面から解説してきた。次回はさらに、プロセスとテクノロジーの側面から掘り下げていきたい。

リーダーシップモデル C-LEAD
分析麻痺時代の企業論
日本経営品質賞報告会レポート【後編】