シスコカルチャーはシスコ経営を理解するための第2の側面であり、13の行動規範から構成されている。その中には“No Technology Religion (技術を過信するな)”や“Fun (楽しめ)”といった文言も含まれている。米国に本社を持つIT企業というと“冷徹な技術屋集団”というイメージを持つ人も多いかもしれない。しかしシスコはそのイメージの対極にあるような企業だといえる。
さらにこれらの行動規範が、“Cisco Family (シスコで働く社員とその家族を大切にする)”と“Customer Success (顧客の成功に貢献すること)”によって、挟まれているのも大きな特徴だ。会社が何のために存在しているのか、そしてそれを実現するメンバーをどのように扱うのかが、明確になっているのである。シスコの社員はこのシスコカルチャーが明記されたバッジを、常に携行して価値観を共有しているのだ。

このシスコカルチャーが徹底されていることは、実際の組織運営にもはっきりと現れている。
例えばグローバルビジネスの展開方法を見てみよう。多くの外資系企業では、本社が各国現地法人の上位組織となり、現地法人は本社の意向にそってビジネスを行うのが一般的だ。これに対してシスコ本社は、各国のベストプラクティスを吸収し、それを他の国にも展開する“ハブ”の役割を果たしている。現地法人の独自性が尊重されており、本社との対等な関係の中でオペレーションが行われているのである。
シスコはまた、数多くの企業をM&A (吸収・合併) してきたことでも知られているが、ここでもシスコカルチャーを見ることができる。M&A後は事業そのものの統合を短時間で遂行する一方で、組織や人財 (このレポートではあえて“人材”ではなく“人財”という表現を用いる) の統合は決して急がない。お互いが信頼しあえる関係になるまで、じっくりと時間をかけるのである。
現在のシスコは、各種ネットワーク製品、ISP向けインフラ、コラボレーション、データセンターや仮想化などをカバーした、総合ICT企業として進化している。これが可能になったのも、過去26年間で行われてきた約140社に上るM&Aを、着実に成功させてきたからなのだ。




